大人のサヴァ小説

□願いはいつも…
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ルナとカオルが結婚して、もうすぐ一年を迎えようとしていた。
宇宙ステーションと地球各地に点在しているテラフォーミング基地とを結ぶフライトに勤務しているカオルは、不定期にルナのいるフランス基地に帰ってきては、また空へと旅立つ日々を送っていた。


暗い部屋の大きな窓から、赤みがかった月の光が注ぎ込んでいる。
ルナはその光を浴びながら、じっと窓越しの夜空にかかる月を見上げていた。
月齢15のその月は、月の表面の模様をよくわかるほどに大きく輝いていた。

チャコ「ルナ、まだ起きとるんか?」

背後からのチャコの声掛けに、ルナは髪を揺らしながらゆっくりと振り返る。

ルナ「ん…、もう少ししたら休むから…」

もの想いにふけるルナの沈んだ眼差しを、チャコは心配そうに見つめる。

チャコ「まだ頭が痛いんか?」
ルナ「ううん、もう平気」
チャコ「夜遅くまで、ハワードの話に付き合うからやで」
ルナ「仕方ないわよ、カオルと連絡取れなくて、誰かに話を聞いてもらいたいのよ」

カオルはこの一ヶ月、このフランス地区には戻ってきていなかった。
悪天候のため、アラスカで足止めされてしまったことと、副パイロットの昇格試験が重なり、今、カオルは月でその試験を受けているのである。

ルナ「うまくいってるといいね」

そう小さく笑って告げると、ルナはまたカオルのいる月を見上げた。
チャコは何ともできない自分に歯がゆさを感じ、トボトボとルナの部屋を後にした。


そして翌日。
ルナとチャコが夕食をとっていると、不意に玄関のドアが開いた。

カオル「ただいま」

パイロットの制服に身を包み、トランクを提げたカオルの姿があった。
ルナは驚きに目を見開いたが、カタンとイスから腰をあげると、すぐにカオルのもとへと駆け寄っていった。

ルナ「おかえり!今日帰るなら、帰るって連絡くれたらよかったのに」
カオル「ああ、シフト強引に変えてもらったんだ」

二人はキスを交わして、ギュッと抱き合う。
連絡がなかったことに、少しふくれているルナの頬を、カオルはいとおしそうに掌を重ねて、やさしい眼差しでルナを見つめた。

チャコ「カオル、夕食は〜?まだやろ〜」

返事が返らないことはじゅうじゅう承知で、チャコはテーブルのチャコ専用イスから降りると、熱く見詰め合う二人の脇をくぐる様にして玄関の扉を出た。
チャコは夕食の注文をしに、部屋のある同じ階にある食堂へと向かった。

チャコ「うちはやっぱり気配り上手やで♪」

注文した食事が出てくるのを待ちながら、チャコはうんうんと満足気に頷くのであった。


部屋に戻ると、ルナとカオルはキッチンにあるテーブルについていて、にこにこと語り合っていた。
ここ何日も見ていなかったルナの幸せそうな笑顔に、チャコも嬉しくなってしまうのだ。

チャコ「カオルー、メシやで〜」
カオル「悪いな」

チャコからトレイにのった食事を受け取ると、食事をはじめた。

ルナ「アラスカはどうだった?」
カオル「ああ…、吹雪で一週間も足止めされた…。オレはもう行きたくない…」
チャコ「ベルと長話できてよかったやろ?」

アラスカ基地には、ベルが勤務についているのだ。
無人島にいたときから、割りに仲のよい二人なら、積もる話で盛り上がったかと思いきや、カオルはげんなりした顔つきで頭をたれた。

ルナ「何かあった?」
カオル「爆弾低気圧が停滞で、しばらく飛べないからと酒盛りされて…、あの例の強い酒、随分と飲まされてな…」
「…あそこで勤務している奴らとは付き合いきれない…」

※例の酒=テキーラ。カオル、テキーラで爆睡のち二日酔いの経験あり。

チャコ「アンタ、また二日酔いしょってたんや〜」
カオル「飲めば体も温まるが、奴らのテンション高くてな…」
ルナ「カオルには辛いトコだったみたいね、アラスカ…」

眉をひそめて食事の続きをするカオルを、ルナとチャコは目配せ合うと笑いあった。

チャコ「そや!試験どやった?」

ちょうど口に食べ物を含んでいたカオルはルナに目線を送り、目を細め微笑む。

ルナ「合格だって!休み明けから副パイロットよ!」
チャコ「おお〜、すごいやないか〜!おめでとう、カオル!」
カオル「ああ」
チャコ「それで、休みはいつまでや?」
カオル「一週間」
チャコ「そんなに…。もっと早くに言うてくれてたらなぁ。ルナかて休み申請できたのに」
ルナ「この時期は駄目よ。他の人の休暇が重なってるから。ほら、ブース2の仕事も私たちのチームでやることになってるのよ。ごめんね、カオル」

ルナはカオルへと、すまなそうな目線を送った。

カオル「いいんだ。ずっと留守にしていた分、休みの間はオレが主夫をしよう」

ぷっとルナとチャコはふき出すようにして笑った。

チャコ「主夫かいな!エプロンかそか〜?」
カオル「いらん」
ルナ「じゃあ、主夫お願いするわね」
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