サヴァ小説2

□月の砂漠で
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月明かりに明るく照らされた砂漠を、オリオン号は行く。
どこを見渡しても、遥か遠くまで白く見える砂山は静かな美しさをたたえている。
動いているのはこのオリオン号だけ。
船は反重力装置のおかげで浮いているものの、背後には吹き上がった砂が、船の航路を霞ませていた。
デッキ前のヘリに手をかけて、丸い月を見上げながら、ベルは深いため息を漏らした。

わかっていたことだというのに…
倒れたカオルを案じるルナの瞳は…
もしあれが、オレやハワードだったら、ルナはあんなにも取り乱したりしただろうか…

そんな風にはならない

心の中の問いかけですら、そんな答えがすぐに浮かんで、ベルは悲しくなって俯いた。

「ベル」

背後から突然シャアラに呼びかけられて、ベルはハッと振り向いた。
近づいてくる足音にすら気づかないとは。

「や、やあ、綺麗な月だよね」

じっと見上げてくるシャアラの眼差しに、ベルは背中に汗が滲むのを感じながら、無理してでも笑顔をとった。

「…ベル。今、下を向いていたよね?」
「えっ!?いや、その…ちょっと前まで見てたんだよ」

もの言いたげな口を閉じて、シャアラはベルの横に並んで、空に架かる月を見上げた。

「ほんと綺麗な月ね…。島に居た時も綺麗だなって思って見てたけど、月と砂漠って神秘さが増して見えるわ」
「そっ、そうだね。島の砂浜とは規模が違うから、不思議な気持ちになるよね」
「うん…島と違って緑もない…動物もいない…。なんだか静かすぎて淋しいわ…」
「そう言われたらそうだね。【みんなの家】だったらいつも何かの音が聞こえていたっけ。鳥や虫や動物の鳴き声…」

話していると、どんどん島の様子が思い出されて、ベルはたまらず大きく息を吸い込み吐き出した。

「大いなる木が風に揺れる音…はじめは恐いくらいだったのに、今はとっても懐かしい…」
「そうだね…」
「沢山の動物の鳴き声が聞こえると、森に入るのがとっても恐かったわ。でもそれも懐かしいの」
「うん、オレもそうだ。でも、この砂漠を抜ける頃には、きっとここも懐かしく思うよ。島へまた帰りたくなるみたいに、ここももう一度見たくなる」
「そうなるかしら?」
「うん…また見たくなる」

島から離れ、海を越えて、この大陸に着いた。
そして、メインテラフォーミングマシンへ向けて砂漠を渡っているのだ。
内陸はもっと違う気候で、景色もどんどん変わっていくことだろう。
心の葛藤はいつまで続くかわからないが、この砂漠の景色はいずれ過ぎ去っていくだろう。

「じゃあ、よく見ておかなくちゃ」

ベルは不意に視線を感じて、シャアラを見下ろした。
自分をじいっと見上げていたシャアラに、ベルは目を思わず見開いた。

「えっ?な、なんでオレを見てるの?」
「月と砂漠とベル。一緒に見たことをようく記憶に留めておきたいの」

シャアラは微笑むと、カメラのアングルを測るかのように指で囲いを作り、その枠でベルを見つめた。
ベルの背後には白っぽく照らされた砂漠が広がり、雲の少ない空には白い大きな月が光っている。

私の大好きな人…
絶対忘れない…
例え誰を好きだったとしても、自分の気持ちは変わらない。

「じゃ、オレも覚えておくよ。二人で砂漠の月見をしたこと」
「二人で見たら、どっちかが忘れても、教えられるから」
「忘れたりしないよ」

どこか物憂げな雰囲気を漂わせながらも、柔和な笑顔を向けるベルに、シャアラも想いを秘めて微笑み返すのだった。

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