サヴァ小説2

□拝啓、すきです
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ルナへのお題は『拝啓、きみがすきです・桜色に染まる・意地の悪い笑顔でも愛しい』です。
ということで、一気に書いて一気に載せてみます。こんなに長い文書くの久しぶり…
時系列的には、アダムとシンゴ、チャコが東の森に行ってる頃くらいの。
練習とばかりに書いたので、生ぬるく読んでください><



☆☆☆

「ん〜、いいお天気〜」

ルナは、朝の少し冷えた空気が流れる湖の岸辺で、大きくのびをする。
大きく吸い込むさわやかな空気で、寝起きのぼんやりとした意識がすっきりして、ルナはこくりと頷いた。
今日も元気に食料探し。日のあるうちにやれることは沢山ある。
何からやろうか。まずは顔を洗おう。
吹いてくる風に目を細め、湖を見ていた体を洗い場へ向けようとした途端、何かがコツンと頭に当たって足元へと落ちた。

「ん?何よう?」

誰かのいたずらなのかと、ルナはすぐに上を仰いだ。
大きな葉に覆われた『大いなる木』の上にあるベランダには人影は見えず、ルナは思わず眉をひそめ首を傾げた。
それから、足元に落ちている紙くずを拾い上げた。
痛くないはずだ。ベルの手帳の一枚と思われる丸めたそれをルナは開いた。
くしゃくしゃになっている紙を、破かないように気をつけゆっくりと開く。

「…『拝啓、きみがすきです』…」

書いてあるのはその一文だけだった。

「ええっ!す、すきですぅっ!?」

思いがけない一文に、ルナは頬を桜色に染めて、思わず声を荒げた。

「…あ?」

こぼれ聞こえた声に、ルナはハッとして紙くずから目を上げた。
目を見張った顔のカオルが間近に立っていて、ルナは呼吸も忘れて凝視してしまう。

「すき…ですって」
「……」
「すき…」

これでは自分がカオルに告白しているようではないか。
カオルの目に驚きと、とまどう色が思いっきり出ているではないか。
はじめて見るカオルの表情の変化に見入りつつ、さっきから「すき」を連発している己にハタと息を飲んだ。
この現状に気づいたルナはあわててしまい、紙くずを片手に振りながら、カオルに告げた。

「あああ、誤解よ、ご か い。このメモが落ちてきて〜、何かと思って見てたの!」

ルナは手にしていたしわだらけのメモ紙をカオルの顔の前に広げて見せた。
まばたきの少ないまなざしで、カオルはじっとそのメモ紙を見つめ、ルナからそれを手にとった。

「……」

じっと紙を見つめるカオルの伏せた目のまつげの綺麗さに、ルナはつい見とれた。
ルナの目線に気づいたかのごとく、カオルがすっと上目でルナを見てきて、ルナは思わずたじろいだ。
すきを連発した自分の気恥ずかしさに、いまだ頬の熱が取れていないのもあり、見つめられるとあせってしまう。

「そっ、それ誰が書いたのかな?」

そっと書いたような優しい雰囲気の字であった。
シャアラの字でも、メノリの字でもない。
ミミズのはったようなシンゴの字でもなく、体に似合わず意外と小さめ几帳面な字を書くベルの字とも違う。
地図の書きこみを一切していないのはハワードとカオルくらいで、他のメンバーの字ならクセから誰かわかるのだ。
目の前にいるカオルか、ハワードのどちらかで。

「…こ、これ…もしかして書いたのは…」

カオルが右の手で掴んでいる紙の端をルナも掴んだ。
しわが伸びて、書いてある一文が逆さでもしっかりと見てとれる。

「『拝啓、きみがすきです』」

低い声音がゆっくりと読み上げる。
ルナはどきりとしてメモ紙からカオルへと目を上げた。

「…すきです…」
「えっ」

自分をまっすぐに捕らえた眼で、カオルが言う。
まるで時が止まったかのように、ルナは目を見開いて、まばたきするのも忘れて立ちすくんだ。
ザザーっと湖からの風に、『大いなる木』が揺れるのを、遠いところでおきていることのように感じていた。

そんなルナの姿をじっと見つめていたカオルは、ふっと息をこぼすように口元に笑みを浮かべた。
なんていうか、意地の悪そうな笑顔だ。
こういう顔を見るのもはじめてて、悪そうな笑顔なのに、愛おしくてちょっとときめくルナであった。

「書いたのはオレじゃない」
「へっ?」

カオルはメモ紙から手を離すと、その場から離れて、柵の扉から向こうへと歩き去っていった。

「えええ〜って、誰なのよう!!」

一気に舞い上がったことに焦燥して、ルナは木の根に脱力して座り込んだ。
色々とやることがあったのに、今日の分のエネルギーをやりとりだけで消耗してしまった気分で、ルナはため息をついた。

☆☆☆

「ああれ〜?」

すっかり日が昇ったリビングで、ハワードが専用席の下やら奥を探って、首を傾げて呟いていた。

「どうしたの?何を探しているの?」

女子部屋の掃除をしていたシャアラは、手作りホウキを片手にリビングを覗き込んだ。

「昨日書いてたものが見あたらないんだよな…まあいっか、新しく書くか」

リビングのテーブルにいつも置いてあるベルの手帳と万年筆を手に取ると、ハワードは専用席にゴロリと身を転がした。

「何をするの?」
「ん?なに、おいしかった食べ物を列記しておこうかと。帰還したら、その体験記で本を出しちゃうってのどうだ?」
「本?ハワードが本を書くの?」
「何だよ、ボクが書くのはおかしいってのか!」

強く言い返されて、シャアラはホウキを抱きしめて思わず身を縮めた。

「ううん、そういうわけじゃないけど…」
「まったく、みんなしてボクをバカにして!面白おかしく書いておけば、売れる本になるんだよっ」

困った顔で見下ろしているシャアラから顔を背けると、ハワードはサラサラと字を書き出した。

「『拝啓、すきです。特にトビハネは最高だ。塩を振り、じっくりと焼きあげたもも肉のジューシーさといったら…』」
「えっ?そこから入るの?」

いきなりの書き出しに、シャアラは思わず突っ込んだ。

「どう書こうがいいだろっ」
「で、でも、ある程度の説明は必要だと思うの。拝啓から、いきなりすきではじまるなんて」
「あーもう、うるさいなあっ」

ハワードは書いていたページを破り、くしゃくしゃにしてリビングから放り投げた。

「あー…、勿体無い…」

書いた文章ではない。貴重なベルの手帳の1ページが台無しになったことに、シャアラは投げた方へとがっかりした顔で見送った。

すぐに下から怒声が上がった。メノリである。

「こらっ!!貴重なメモ帳で遊ぶな!!ハワード、さぼってないで、食料探しに出かけるぞ!!」
「ひいっ」

メノリの姿は見えないけれど、怒っている顔をイメージするのはたやすい。
ハワードは体が一瞬浮いたかのように驚くと、寝そべっていた佇まいを正した。

「はやく降りて来い!!」

二度目の怒声に、ハワードはため息を漏らして、肩を落としてハシゴを降りていくのであった。

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