サヴァ小説2

□祈り
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【船の完成まであと数日…というある日のできごと】

東の森の茂った木々に朝日がさして、今日も晴れ晴れとした一日が始まった。
皆より、一足先に目覚めたカオルは、バケツを手に提げて川辺へと歩いていた。

「おお、カオル、早いのう」

ポルトの声に、カオルは製作中の船へと目を向けた。
ポルトは船の手前に腰掛けており、一見船の同色なジャンバーを着てるため、姿に気がつかなかったことに、カオルは瞬きをした。

「これから仕事か?」

仕事ではないところへ、一人そっと行こうと思っていたカオルは、思わず返事に困った。

「奴らのところへ行くのなら、ワシを連れてってくれんかの?」

どうやら向う予定の先は、ポルトに気づかれているようだ。
カオルはコクリと頷くと、川辺で顔を洗い、それから水を汲んで、裏手にある脱獄囚の墓へと、ポルトを案内した。

一人で歩けると介助を固辞するポルトに合わせ、ゆっくりと斜面を登って行く。
何度も人が歩き、時にはベルが草を刈り、カオルが邪魔な石を排除して整備され、今では、墓までゆるやかな小さな道が出来上がっていた。
歩きやすくはなっていたが、怪我のあるポルトにはかなり負荷がかかって、息を乱しては足を止めた。

「はあっ、はあっ」
「大丈夫か?」
「寝てばかりいたせいで、すっかりなまくらじゃ、体が言うことをきかん」

ゼイゼイ言いながらも、杖を片手に、一人で坂を上るポルトである。
カオルは困った顔をしながら、少し前を登っていった。

「あそこにある岩の下だ」

近くに見えてきた墓を指差して、カオルは後方のポルトを振り返った。
ゼイゼイと息を切らしながら、ポルトは示された先を目を細めて見つめた。
大きく開けた花々が咲く草原に、ポツンと岩があり、気持ちの良い朝の空気を風が運んでいく。

「眺めの良い、いい場所じゃな。…悪さの限りを尽くした奴らには、ちと勿体ないかもしれん」

ニヤリと歯を見せて、ポルトは悪そうに顔を歪めて笑った。

「じゃが、ここまで運ぶのは大変じゃったな。よくやってくれた。…ありがとう、カオル」

墓のたもとに植えた小さな白い花に、カオルは運んできた水を注ぐ。
カオルがしていることを、じっと見つめ、それが終わると、ポルトは地面の盛り上がりを前に跪いた。
皮の厚い節ばった手を合わせ、ポルトは祈りを捧げる。

(…もうじき、ワシも逝く。いいか、この子たちを決して恨むなよ…)

瞑目するポルトの脳裏に、不適に笑う三人の姿が浮かんでいた。
自分の頼みなど、決してききはしない三人とわかってはいたが、ポルトは祈らずにはいられなかった。

長いこと目を瞑り祈るポルトの姿を、カオルはただ黙って見下ろしていた。



【あとがき】
何か載せるものはあったかなと、書けそうなところはないかと部分的なものですが、短い上にタイミング読めてない感満載ですが、カオルとポルトさんのやりとりが好きだったのでUPしてみます。
断片的にしか書けなくて申し訳ないです。
30万HIT、10年目の更新延滞なサイトなので早いのか遅いのか、微妙なところでありますが、思い出しては訪問してくださる皆様のおかげです。ありがとうございます!


 

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