好死は悪活に如かず

□好死E
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「…わかった。…時系列がバラバラだけど、勘弁してくれ。」

そう断って、カオルがノートを開く。

それを小五郎と、ロープでぐるぐる巻きになった変態と眼鏡が覗きこんだ。

「まず4月30日だ。終業式のあった日だな。俺達の計画はここから始まったんだ。」

カオルの話はこうだ。

終業式の後、俊輔から「GWの予定は特に無い」と聞いていたカオルと山縣は、この30日の夕方、伊藤俊輔の誘拐を決行するつもりだった。

もちろん本人の承諾は取っていなかったし、彼を強奪後、色々と言われる事は覚悟の上だった。
しかも当の俊輔が実家に帰ると言ってしまえば計画は無駄に終わってしまう。
そこで、だ。
知り合いの女子を紹介するという口実で、うまい具合に丸め込み、カオルの実家へと招待しよう!…という一連の流れを計画していたのである。

だがこれには伏兵の自称伊藤マニアが黙っていなかった。

「駄目だ駄目だ駄目だ!!一つ屋根の下で、男二人がお泊り!?そんなテンプレみてぇなおいしい状態で何も無いはずがない!!寝る前、伊藤にもし「おれ、身体がなんか熱い…ちょっと見て?」なんて言ってパジャマを肌蹴て、石鹸の香りふわっとさせて上目使いでお願いされてみろよ!!飛ぶよ!!?理性飛ぶよ!!?伊藤の鎖骨と首筋と乳首だよ!!っていうかてめぇ!!!もし…もしそんなうっかり一線超えちゃうようなラッキースケベがあったとしたら、オレは…お前を許さないだろう…そう…例え友達だとしても…オレは…オレは…お前を呪う…!!!末代まで!!!念入りに呪う!!!」

と、当初猛烈に反対していたのだが、「俊輔の湯上りと寝顔の写真送るけど。」とカオルが提案した途端、山縣は驚くほど静かになった。

もともと某ネズミ―ランドへ、クラスメイトの連中と行く計画はあったので、それに便乗した形だ。

何かしら言い訳をつけて連れ込むには、ランドが近いカオルの実家は最適だった。

山縣は俊輔の笑顔の写真3枚と引き換えに寮内に残り、情報提供を任された。
どちらにしろ、彼の実家は松下学園の敷地にごく近いため、わざわざ帰るまでも無いのだ。

「決行時刻は21時。うまく連れ出すために野次馬とエキストラを少しだけ頼んだ。ついでに、噂も広めてもらった。」

「噂?」

眉を顰める小五郎に、カオルは苦笑してみせた。

「俊輔を連れ出すにはどうってことないけど、出来れば俺らの顔が割れるのは避けたかったんだ。足が付いても厄介だしな。だから1077号に空きがでて、しかもルームメイト募集とでもいえば、人が集まるんじゃないかと思って。」

…結果は予想以上だった。
「正直お前らのネームバリューには驚いたよ。」と笑うカオルに、小五郎は吐き捨てるように「だろうな」と呟いた。

「ついでに高杉君が帰る時間を見計らって、部屋の前に張り紙を貼ったんだ。あれで信憑性が増したな。」

「…なるほど。」

4月30日の自分たちの部屋を男臭い匂いで充満させた騒動はこいつらが首謀か、と小五郎は息を吐いた。

「その混乱の中であの馬鹿を掻っ攫おうって魂胆だったのか。」

「まぁな…。久坂君、和田君、高杉君の3人の帰宅時間も調べてさ…久坂君の部活終わるのが午後5時。でも1年の後片づけを考えて6時くらいには帰るはず。高杉君は7時。終業式のアトリエ閉鎖時間が6時半だったからな。そして和田君は9時過ぎ…。政経クラスは8時半まで授業だった…。な、栄太。」

栄太、と言う名前を聞いて、小五郎がいかにも面白くなさそうな顔をして、じと、と視線を流した。

「…テメェがウチの事情に口を挟んできた理由がようやくわかったぜ…。普段余所様の事情なんて見向きもしねぇテメェが…。」


栄太は何も言わず、琥珀色の液体を口に含み、こくりと喉を上下させ、少しだけ口角をあげた。
会心の笑み、というわけではないが、幾分か満足したような顔だった。

「あ、栄太は直接この計画には関与してないからな!俺らが勝手に政経の情報を教えてくれって頼んだんだ。あんまり責めないでくれよ。…まぁそれで、和田君がちょうど帰る頃合いには俊輔は連れ出しているつもりだった…。」


でも、とカオルの顔が曇る。


「結局、空振りに終わった。」

人海戦術を駆使して、東風が不用意に開けた玄関から、そのまま部屋へ雪崩れ込むまでは計画通りだった。
しかし、目的の人物は影も形も無かったのだ。

「あの時、俊輔はもう部屋にはいなかったんだ。」

野次馬、エキストラの目的が奥へ集中する中、玄関際の俊輔の部屋を覗いたカオルは、彼の不在を確認していた。

「俊輔が俺らと寮へ帰った時間が午後5時。そこから俺らと雑談して、部屋へ戻ったのが多分5時半より少し前だったと思う。」

カオルが苦々しい顔をして、ノートを見た。

「その日から俊輔との連絡が取れなくなった。そして当初約束してた日にランドに来る事もなかった。もしあいつが来てたら、計画を変えてそこから俺の家に招待するつもりだった。…連絡は来なかった。…それで今日に至る。俺達の計画はここまでだ。」

途中でぷつりと切れた空白のノートをカオルはサラリと撫でた。

「今考えれば、来なかったんじゃなくて…来れなかったんだよな。」

「…。」

「なにかがあったんだ、この午後5時半から9時までの、3時間半の間に…。」

それに釣られて他の面々も思わずノートを見詰めたが、一人だけ、ぼそりと呟いた者が居た。

「…30分だ。」

「…は?」

その場に居た全員が、声の方向を見る。
猿ぐつわを外すために暴れまくったのか、少し髪が乱れ、眼鏡のずれた通武が、真面目な顔をして再度言い放った。

「貴様の言う通り、俺が部屋についたのは18時前だ。部屋の扉が施錠されておらず、不審に思ったのを覚えている。間違いでなければ…台所で奴は食事の準備をしていた様だったようだが、何故か台所に人の気配は無かった…。」

「…それ、マジか?」

「偽りはない…。だが部屋に居たという可能性は否定しきれん…。しかし、あの男は同居人が帰ると、わざわざ胸糞の悪くなるような笑みを浮かべて、声をかけてくるという不可解な習性を持つ男だ。…その日、奴が顔を出す事はなかった。」

「…と、いう事は…。」

「断定とは言わん…だが、あの時あの男は俺達の部屋に居なかったのでは無いかと思う…。あるいは…。」

失踪直後だったのかもしれん、と言った通武の言葉に、カオルがごくり、と喉を鳴らした。
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