好死は悪活に如かず

□好死E
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通武の発言により和やかになったカオルと小五郎の表情から笑みが消えたのは、それから間も無くだった。


「なんだ、これ…」


カオルが手にしたケータイの画面には



不在着信100件
未読メール316件




可愛らしい女の子の待ち受け画面の前に表示された無機質な数字の表記が無言で訴えてくる。

「……100…件も…」

「…いや…」

唖然としたカオルに、小五郎がつとめて冷静な声を出す。

「最低100件、が正しい。ケータイの記録可能な履歴数は100までだ。」

そう言うなり小五郎はカオルの手からケータイを抜き取ると、なんの躊躇もなく着信履歴を開いた。

「同じ番号からだな…。」

ケータイは画面は同じ番号で埋まっていた。
画面をスクロールすると、「井上カオル」と「山縣辰也」、また名前の登録のある何件かの着信が入っているが、大半がその無機質な11ケタの番号である。

「名前の登録がねぇってことは…お前らのダチじゃなさそうだな…」

呟いた小五郎は、次にメールボックスを開いた。
そして最新のメールを開くと、そこには一言。




『これ見たひと、連絡ください』




「…どういう意味だ?」

カオルが眉を顰める。

「連絡ください…って…このメールは俊輔からか…?」

発信元のアドレスを確認するが、有名なフリーメールのようで、やはり登録されていないものである。小五郎は黙って何件かメールを開いてみたが、ほぼ内容は同じ。

このケータイを見つけたら連絡をください、
ケータイを探しています、
このメールをみたら連絡をください、
電話をください。


連絡をください。

電話をください。


「…井上…てめえは」

「…」

「もし自分のケータイを落としたら、同じような内容のメール300通送って、推定100回以上の電話かけんのか。」

画面を見たまま問う小五郎に、カオルが引きつった笑顔で呟いた。



「じゃあ……?」



瞬間、ヴヴ、と鈍い振動がして、ケータイが震えた。
驚いたカオルが咄嗟にその画面を覗き込むと、例のアドレスからメールが一通届いたようだ。
小五郎が黙ったまま、そのメールを開く。




『連絡ください。』




「…。」

訝しげな表情をしたカオルが、小五郎の顔を伺おうとすると、またヴヴー、とケータイが震える。
また同じアドレスでメール。






『だれか見てる?』







思わずカオルが飛び退く。
それからキョロキョロと周りを見渡したが、当然ながら何もない。
すかさず、ヴヴーと無機質な音が静まり返った部屋に響き出し、次々にメールが届く。


『返信ください。』

『返事をください。』

『おい、読んでんだろ( ^ω^ )』

『返事しろって( ^ω^ )』

『電話でてください( ^ω^ )』

瞬間、ケータイが震えだし、メロディが流れる。
小五郎は黙ってそれを眺めていると、やがてそのメロディが途切れ、ほとんど間を開けずにメールを受信する。


『何してんだよ( ^ω^ )』

『見てんだろ( ^ω^ )』

『おい( ^ω^ )』

『電話でろ( ^ω^ )』

そしてまたメロディが流れる。
もはやカオルは青褪めた表情でケータイを眺めていた。
異常。
その一言に尽きた。

小五郎はメールと着信の嵐をただ静かに眺めている。
そして何度目かの着信が途切れ、一通、メールが来た。





『 出ろ 』




「…」

唖然として言葉の出ないカオルを横に、小五郎は「願ってもねぇ」と呟いた。

「釣ったか釣られたか知らねぇが、面白くなってきやがった。」

ギョッとした顔をしたカオルを見もせずに、小五郎は再び鳴り出したケータイ電話の通話ボタンを押した。
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