Penalty game

□PenaltyB
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康高のパソコンがエラーしたのと同じ頃。
学校のすぐ近くにある住宅街の中を、大江和仁は悠々と歩いていた。
そして住宅街周辺でも抜きん出てデカい、一軒家のインターホンを押し、返事が無いのを確認すると、慣れた手付きでドアを開けた。

「九条〜!!おはよう〜!!」

わが物顔で家に上がると、和仁は当たり前のように大声で叫ぶ。
すると洗面台の奥から歯ブラシを銜えたまま、ダルそうな顔をしている九条が出てきた。

「うるへぇ」

「なんだよぉ〜!!まだ準備出来てないのぉ?折角今日は花まる観ないで来たのに〜」

どっちにしろこの時間では遅刻なので仕方無い。
何の問題が有るというのか、という目をした九条は、不満げな顔をした和仁を置いて、洗面台に引っ込んだ。

この広い家に、九条は両親と姉の四人で暮らしている。
しかし現在は九条の一人暮らしと言っても過言ではない。
両親は海外へ赴任中。一緒に住んでいる姉は大学院の研究員で、地方に行ったり来たりする上に、大学に泊り込みの調査をしているため、滅多に帰って来ないのである。
九条の姉は物凄い美人で、怒ると滅茶苦茶に怖い女性であった。

「おねーさん、今度は何処行ってんの?」

和仁が尋ねると、ガサガサとゴミ箱を掻き分ける様な音がして、洗面台から丸まった紙が飛んでくると、和仁の頭にぽこんと当たった。
そこには「中世都市、平泉」と銘打った旅行パンフレットと、九条の姉の字とおぼしき手書きのスケジュールが丸まっていた。

「岩手かぁ〜。お土産はりんごかなぁ」

そりゃ青森だ。と篭もった声が聞こえる。それに少し笑ってから、和仁はパンフレットを綺麗に畳むと、そういえばねぇ、と話題を変えた。

「昨日のね、千葉君だけどね〜。」

狙った様にそう言うと、洗面台の奥から少し間を置いて「あぁ」と返答があった。

「やっぱ病院行ったんだって〜」

広い玄関に座り込みながら、和仁は声を張り上げる。
それにあ〜、とやる気の無い声が洗面台の奥から返ってきた。水が跳ねるような音がしたので、どうやら口をすすいでいる様だ。

「そんでね、今意識不明の重体なんだって〜。」

ブホッ、と洗面所から水を噴出すような音がして、和仁は思わずガッツポーズをしてしまった。

「あっははは‼‼‼ひゅう〜、うそでしたぁ〜」

してやったり、と和仁が笑う間もなく、洗面所から物凄い勢いで石鹸が飛んできて、見事に和仁の額に命中したのだった。




九条の支度が整い、外に出るまで、和仁は目に涙を浮かべながらクリティカルヒットした額の痛みと格闘する羽目となった。

「何も石鹸投げなくたって良いのに。しかもケースごと‼」

「黙れ」

赤くなった額を擦りながら、家の鍵をかける九条にぶーぶーと和仁が文句を垂れる。

「ところでさ。その病院行った千葉君だけど、今日は普通に学校来てるみたいだぜ〜。さっき、三浦が廊下で見たってメールくれたぁ。」

九条はふ〜んと興味無さそうに呟くと、スタスタと歩いてゆく。
朝の登校時間はとっくに過ぎているので、道は閑散としているが、それでも通り過ぎる人がいれば必ずと言って良いほど九条と和仁を凝視した。

ベースの金髪が朝日を浴びて輝き、それに加えて黒髪の部分も光沢を増す。それが端整な顔をより美しく引き立てて、人は無意識に目を奪われる。

同じく日本人離れした鮮やかな赤色の髪が嫌味な程似合う男が連れ立って歩けば必然的に注目を浴びた。
だが、通りすがりのOLや女子大生がうっとりと眺めて来るのはいつもの事で、今更驚くような事では無い。
2人は飄々と歩いてゆく。

「んで、どうすんの?まだ千葉君と付き合う気なら引止めないとねぇ。どんだけ九条が千葉君が良い〜!!って言っても相手に拒否されたら強制的に新しいお相手になっちゃうよ?とりあえず昨日みたいにお昼にまた呼び出しかけとく?」

「昼?」

怪訝な顔をする九条に、和仁は首を傾げた。

「え?違うの?」

じゃあ、いつ行くつもりなんだろう、と和仁が思案している間に気が付けば既に校門が目前に迫っていた。
校門に入ると、ふと九条が呟いた。

「昼まで待つ必要はねぇ。」

「うん、そうだ…はい?」

いきなり話し出した九条に、咄嗟に相槌を打った和仁は、頷いてから予想だにしない言葉が飛び出したのだと気が付いて直ぐに聞き返した。
九条の顔を見ると、いつもと変わらない無愛想な顔をしていた。
彼は眼前に広がる校舎を眺めると、さも当然のように呟いたのである。

「折角こんな早くから来てやったんだ。今、連れて行きゃ良い話じゃねぇか。」

「はぁ〜仰る通りです。」


俺様九条様が降臨された。
そして九条は、苦笑する和仁に構わずに校舎に入ると、迷わず一年生の教室へ向かったのである。
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