Penalty game
□PenaltyC
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隆平が九条から告白され一週間が経とうとしていた。
九条も隆平も、つつがなく過ごしている。
なにか特別に変わった事は無く、あると言えば二人が昼を一緒に食べるようになったことと、一緒に帰るようになったことぐらい。
そうすることで二人は一応「付き合っている」という名目は守っている。
だが、何にしろ正反対の二人だ。
特に話すような事も無く、必要以外の会話はしない。
ただ傍に居るだけ。
九条は相変わらず偉そうにしているし、とりあえず不良にはそれなりの牽制はしていた。
そして約束通り隆平を「おい」とか「お前」と呼んで、隆平の名前は一度も呼んではいない。
また、隆平も相変わらず、通常通りのビビりだし、鼻は折れていたし、いつもと変わったところは一つもない。
彼も約束通り、必要以上に九条には関わらないようにしている。
そしてやはり、「先輩」という固有名詞以外では九条を呼ぶことは無く、九条の名前は一度も呼んでいない。
そんな二人を前に、和仁は果てしなく不満だった。
「どう思う?やっくん」
「どうもこうも無いですよ。いい傾向だと思います。少なくとも俺にとっては。」
ジャージ姿で体育館の隅に座り込む康高の横に、制服のまま膝を抱えて膨れっ面をした和仁は先程から九条と隆平の仲を不満そうに語っては溜息を繰り返していた。
そんな和仁に康高は周囲の視線を感じながら、こちらも深い溜息をつく。
今は四時間目の体育の時間。
体育館では、丁度四グループに分かれてバスケットの試合の最中だ。
先程から審判をしている体育教師が笛を鳴らしながらチラチラとこちらを眺めているのだが、声をかけてくる気配は無い。
「(わかるよ、先生。あんたは間違っていない。)」
康高は思わず遠い目をしてしまう。
一週間前に一年三組で虎組の総長、副総長が現れ、教師が失神したという話は既に全校で知らない者は居ない。
そして一人の生徒が拉致され半殺しになった、というオマケつきで流れた噂は校内の生徒と教師を震撼させたのである。
だが実際のところ、半殺しになったはずの生徒Aは今現在も涼しい顔で点数表を捲っている。
その噂に付け込んでの行為であろう。和仁はなんの悪びれも無く、こうして授業中にやってくる。
この男は何を思ったのか、あれ以来ことある事に九条と隆平のことについて相談してくるようになった。
登校中、下校中、昼食中。もちろん授業中でも時間は問わない神出鬼没ぶりで、迷惑なことこの上無い。
勿論嫌がらせのつもりなのだろう。
そうでなければ、こちらから宣戦布告した相手にまとわり着くという奇行は康高には理解し難いものだった。
そしてその相談内容も酷いものだ。
「大人しすぎるんだよねぇあの二人。」
「はぁ」
「付き合う事になったのは良いよ?でも二人で居ると全然そんな感じじゃないんだよねぇ〜。オレ的にはさぁ〜お互いのこと気になってそわそわしてほしいわけ〜。んでそんな可愛い二人に事件とか起こってほしいわけね」
「はぁ」
「王道なのは彼氏の浮気…それで千葉君が俺の事は遊びだったのねぇ〜!!って…そんな事件が…。」
「ゲームと名がつく位なんだから遊びなんでしょうが。」
「でもそれは誤解でぇ、ごめん、お前が一番だよ!!ほんと?俺も素直になれなくてごめんねっ!!そして重なる二つの影、みたいな。」
「はぁ」
「なのにあいつら、なんもアクションも起さないの!!あいつら恋愛ナメてんよねぇ!!?」
「ナメてんのはアンタだ。」
放っておこうと生返事を返してきたが、和仁の妄想を頭の中でリアルに想像してしまい、不快に顔を歪めた康高は咄嗟にツッコミを入れてしまった。
「第一、俺に相談しに来るのが間違ってますよ。俺は九条大雅と千葉隆平の仲をぶっ壊したい会の会長です。その二人の仲が冷め切った倦怠期中の中年カップルみたいな状況なら、俺には願っても無いことですよ。そのまま何事も無く一ヶ月過ぎて、早く隆平を解放してくださいって感じ。」
康高はそう言うと、おもむろに立ち上がり、転がってきたボールを、コート内で固まっている生徒達に投げ返してやる。
ボールを受け取ると、コート内の生徒はそそくさと試合を再開し、康高とは目も合わせようとしなかった。
こうやって大江和仁と頻繁に話すようになってから、康高も同類と見なされる様になっていたのだ。
「ちぇ〜面白くないの、やっくん。」
「どういたしまして。」
その返答にぷぅ、と頬を膨らませた和仁はよっこいせ、と腰を上げた。
「せっかくオレが来てあげてんのに〜、オレから動かないとやっくんは会いに来てもくれないしさぁ〜」
「そんな自分から厄介事起すような事しませんよ」
「自分からねぇ…」
そう呟くと、ハッと和仁は閃いた。そうしてにこぉ、と満面笑みを浮かべる。
それを見た康高が顔をひくりと歪ませたが、構いもせずに和仁はそそくさと帰り支度を始めた。
「オレ、ちょっと用事を思い出したから帰る!!あ、また来るからぁ〜。」
そう康高に言ってスキップしながら去ってゆく和仁はこの上なく上機嫌だった。
後ろから康高が「二度と来るな」と毒づいたのにも気が付かず、浮き足立って体育館を後にした。
体育館を後にした和仁は屋上に続く階段を登りながら「なーんだ簡単なことじゃ〜ん!」とにこやかに笑んだ。
「やっくんもなかなか良いこと言うじゃない〜。そうだよねぇ。」
事件が無いなら自ら起せば良いのだ。
ニコニコと笑いながら軽い足取りで階段を登りながら、和仁は早速ケータイを取り出したのだった。