Penalty game

□PenaltyE
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時計は5時半を回った。


段々と空に赤みが差してきた町は、ゆったりと時間が流れ、穏やかな雰囲気を作り出している。
和仁達のいる店内も、柔らかな光が灯され、メニューもランチからディナーへ変わった。

薄紫色の空に、ゆっくりと雲が流れて行くのを眺めながら、和田はたまらずに欠伸を一つ漏らした。

その隣で三浦が、ノートの「8時間」の項目にペケ印を付けて、「ううむ」と唸る。

「ほぼ全滅っす。」

そう言った三浦に、どれどれと言って和仁が顔を寄せる。
それに続いて、欠伸で出た涙を拭いた和田が、目を擦りながら机に置かれたノートを覗き込むと、ニヤリと笑った。

「何だ、もう俺と和仁しか残ってねぇじゃん。」

そう言って残った10時間の項目と、番外で付け足された「九条が来る」という項目を指で辿る。

「こりゃ一人勝ちしたらボロ儲けだな。」

「うん、正直ここまで粘るとは思わなかったよねぇ。」

機嫌良く笑う和田にケータイを弄りながら和仁が呟いた。
それには、他のメンバーも同感だったらしく、和仁の言葉に各々が複雑な表情で頷いた。

メンバーの殆どは、せいぜい2、3時間だろうとタカを括っていたため、最初のほうで大多数が負けていたのである。
勿論2.3時間以上に賭けた者もいたが、それでも5時間が限度だろうと、ここで残りの者が負け、8時間も経過すると、そこには和田と和仁だけが残った。

「まぁ大穴賭けといてなんだけど、俺もまさかここまでとは思わなかったぜ。」

千葉隆平は意外と良い根性をしている。
まぁ実際の所は、殴られるのが嫌で待って居るだけかも知れないが。
それにしても8時間は凄い。

「でも辛抱強いって言や、俺達だよなぁ。」

はぁ〜と和田がため息を付くと、疲れた顔のメンバーが一斉に頷く。
隆平は確かに凄いが、和田達は彼が来る前からここに陣取っている。
和仁の命令で朝早くから配置させら、入れ替わり立ち代わりで去って行く客の顔を見ながらこうして長時間の滞在を余儀なくされていた。
この長時間、同じ場所に居続ける苦しみは隆平と痛み分けだ。
これは功労賞として、一人幾らか貰わなければ割に合わない。

「出来ることならもう帰って寝てぇよ…。」

首をポキポキと鳴らしながら回して、和田はため息をついた。

「ダメダメ〜、最後まで見届けないと〜。」

それがオレ達の任務なのら〜、とニコニコしながら首に腕を回して来る和仁に、「酔っ払いか」と、軽く小突くと和田は心底疲れた顔をした。

「楽しそうだなぁ。おめぇはよ…。」

そう言ってゆっくりと和仁の腕を外すと、煙草を取り出す。
こうしてここに来た当初からもう何本も吸っているが、店員に注意されることはついに無かった。
どうやら店側も長時間居座る派手な不良に、自ら関わりを持つことは好ましくないと判断しているようだ。
和田がタバコの煙を吐き出すと、和仁がニヤニヤと笑う。

「楽しくないの?和田チャンは。」

聞かれた和田は煙を吐き出しながら外を見る。そして相変わらず、ボーっとしながら遠くを見ている隆平を眺めた。

「じゃあ聞くが、「アレ」だけ何時間も観察して楽しいかよ。」

「楽しいよ?」

ヘラヘラと笑う和仁を見て、和田はガックリと肩を落とした。
こいつに聞いたのが間違いだった。
こいつは真性の愉快犯、人の不幸は蜜の味。楽しいはずだ、来ない人間をひたすら待ってる不運で可哀相な奴の観察は。
そんな和仁に深いため息をついた和田は、煙草の灰を落とすため、灰皿を取ろうとしてふ、と感じた視線に、目線を店の入り口に向けた。

「(まただ。)」

気が付いて和田は眉を寄せた。
一時間程前からか。
店の入り口に座る数名の男から視線を感じていた。それは時間が過ぎれば過ぎるほど、注視されているような不躾なものへと変わっていた。
カウンターを見る振りをして、確認するが、やはりこちらを眺めながら、何かケータイで連絡を取り合っている。
それに気を悪くして灰を落とすだけのつもりが、ついギュウ、と灰皿に煙草を押し付けてしまった。

「ちょいと、あからさま過ぎやしねぇか。」

和田が少しイライラとしながらそう呟くと、和仁がケータイを弄る手を止めないまま、困った様に笑った。

「やめよーよぉ。相手にしない方が良いって。」

「いや、暇つぶし位にはなる。」

「でも見ない顔だし。」

虎組の大江和仁と、和田宗一郎と言えば、神代地区では知らない者は居ない。そんな男に挑むのは、よっぽど腕に自信が有るか、あるいはただの馬鹿か、どちらかだ。
そういう意味で和仁は冷静だ。

和仁はそれがどちらなのか冷静に見抜く事が出来る。
今自分達に不躾な視線を送っている輩は、見たところ喧嘩慣れしていない奴らばかりである。

取るに足らない連中だ。
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