Penalty game

□PenaltyE
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だが、和田の方は、相当苛々としているらしく、ライターを片手で弄びながら二本目の煙草に火を付けた。

もともと和田は喧嘩が好きで虎組に入ったと言っても過言ではない。
最近では他の組との抗争が無いので、新しく入ったメンバーの教育係に徹していたが、いざ喧嘩となると人が変わった様に凶悪になるタイプだった。

そしてまた、他のメンバーも和田に触発されたのか、険のある目つきで、入り口付近の男達を見ている。
平和ボケしていて、喧嘩のやり方も忘れてしまっていのでは無いかと、前に和田が心配していたが、そんなことも無さそうだ。

まぁ、あちこちで小さい小競り合いみたいなのは頻繁に起きているから、個人的な喧嘩はちょくちょくしているんだろう。

だけど、と和仁は珍しく眉を寄せる。


「(まいったなぁ。
こっちはこっちで今から面白くなる予定なんだけど…。)」


そう思いながら、一人メンバーの目線とは反対の窓の外を眺める。
その視線の先には千葉隆平。

あのアホ面を観察できるゲームを中断させるのはいただけないなぁ。
そうして一人、困った困った、と呟いた。












それから約二時間程前…。



康高は一人難しい顔をして考え込んでいた。

隆平がまた暢気な顔で待ち始めたのは良いが、やはり九条大雅が来る気配は無い。
普通約束をしておいて、こんなに待たせるのも可笑しな話だ。
と、なれば、九条は最初から来る気が無かったのか。
だが、そうであれば何故隆平はこんなに長く待って居なければならないのだろう。

誰かしら連絡をしてやらないのか。
あのお節介な大江和仁なら隆平に怪しまれないために如何にも世話を焼きそうなものだが。

そして、他にも腑に落ちない事がある。
隆平が財布をスられかけた際に、犯人を捕まえた虎組のメンバー。
偶然にしては、少し妙だ。
当然向こうは隆平の顔も知っているだろうから、顔見知りで助けてやったのかも知れないが、隆平の話では、屋上では邪険にされていると、先日に聞いたばかりだ。

そんな扱いを受けている隆平を気まぐれで助けたりするものだろうか。

康高が悶々と考え込んでいると、一人放って置かれた紗希が、康高の前に座り、康高の眉間をチョン、と突いた。それに、おお、と答えると紗希が顔を覗きこんでくる。

「どーしたの、こわーい顔して」

「いや。」

なんでも無い、と言った康高に、紗希がその伸びきった前髪を掴んだ。

「嘘。なんか難しい事考えてる。」

また秘密のするの?と問われて、康高は困った様に笑った。

「少し考えていただけだ。何も秘密にしちゃいない」

ふぅん、と少し疑わしげな目で見てから、紗希はまぁいいか、と呟いて立ち上がった。それから,康高が教えてやった宿題やら何やらを鞄に詰め込んでゆく。

「なんだ、帰るのか」

「うん。夕方から学校に呼ばれてるの。学園祭近いから、準備でさ。」

「なんだ。お袋が紗希に夕飯を食べて貰えるって張り切っていたのに。残念だったな。」

「えぇ〜!!なによぅ、やっちゃんが早く言ってくれれば紗希、皆に断ったのに!!」

そう言って拗ねる姿は隆平そっくりだ。それが妙に可笑しくて、康高は眉尻を下げて笑った。

「お前達、やっぱり双子だな」

この双子は顔が似ていないので、知らない人間に双子と言われるとよく驚かれるのだが、話すときの癖や、笑った時の顔や、こうして拗ねる時の仕草が驚くほど似ている事がある。
笑った康高に紗希は、少し嬉しそうに笑うと、どこか誇らしげな顔をした。

「じゃあ帰る前に由利恵さんに謝ってから帰らないとね。それじゃあ…」

少し言い淀んだ紗希に、康高がふ、と笑って紗希の頭を撫でる。

「心配するな。隆平は大丈夫だ」

「うん…。」

頷いた紗希の表情は暗い。その気持ちが康高はよく分かった。
紗希にとって、隆平は双子の兄であり、それ以上に大切な存在であるのだ。
その隆平が今置かれている状況を思えば、紗希が阻喪するのは無理も無かった。
しかもそれが隆平本人の意思であるという事から、口の挟みようが無いのが辛い。

紗希に出来るのは、隆平を見守る事と、康高に彼を守って貰うよう頼む事だけだ。
歯がゆいのだろう。本来一番近くに居る存在なだけに、紗希の心情は複雑だった。

しかし陰鬱な表情をかき消すように、紗希はにこ、と笑うと荷物を持ち上げて康高に笑いかけた。

「ありがと、やっちゃん。隆ちゃんをお願いね」

そう言い残して部屋を後にした紗希の背中を眺めながら、康高は黙って追う。
それから居間に控えていた由利恵にすみません、と挨拶し、謝りながら談笑する紗希を眺めて、康高は漠然と頭にある思いが、ふと頭をよぎる。
それから失礼します、と玄関の扉に手をかけた紗希に、康高は声を掛けた。

「紗希」
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