Penalty game
□penaltyG
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明けない夜は無い。
誰がどんな風に昨日を過ごそうとも、変わらず明日はやって来るものだ。
静寂の闇に身を任せて、ひっそりと息を潜める様にして隠れていても、何れは朝日が昇り、その姿は眩しい陽光の元に照らされる。
明日を待ち遠しく思う者にも、そうでない者にも、それは平等に訪れる。
明けない夜は無い。
それ故に、誰しもがその陽光を浴びて立ち上がり、前に進むための覚悟を決めなければならないのである。
騒がしかった週末が過ぎて、普段通りの日々がまた始まろうとしている。
青く広がる空を、布団から顔を出し、窓越しにうっとりと眺めて、この週末は本当に楽しかった、と笑ったのは和仁だった。
大江和仁の朝は遅い。
まず目が覚めてケータイを確認すると六時。
それから幸せそうに布団を手繰り寄せながら二度寝をする。
大体二時間ほど浅い眠りを楽しむと、漸くノロノロと起床するのである。
そして家族に遅めの朝の挨拶をした後、昨晩コンビニで買って来た菓子パンを開けながらテレビタイム。
薬丸さんと一緒に「オープン!!」と言いながら食事を済ませ、洗顔して歯を磨いて、そこら辺にあるシャツを適当に着込むと髪の毛をちょっとだけセットして身だしなみ完了。
そしてカバンの中に友達から借りたエロ本を突っ込んだ上に、御礼に自分のおススメ無修正AVを何本か突っ込む。
すごく良いよ!!といつも自信満々で貸すのだが、渡した瞬間にパッケージを見た友人が青い顔をして「トラウマになる」と押し返して来るのが常だった。
だが用済みとなったそのAVをこっそりと九条や和田の鞄に仕込んで置けば、それでまた楽しい事態になるので、家に置いていく事はしない。
愉快犯は笑いのために小道具の準備は常に怠らないのである。
それから他にごちゃごちゃと鞄の中に秘密道具を詰め込んで肩に担ぐと玄関を出る。
「うひゃ。い〜い天気」
そう呟きながら悠々と歩き出す。朝方よりも幾分か高くなった太陽の光を浴びながら、和仁は軽い足取りで住宅街を突進んでゆく。
また和仁にとって愉快な一日が始まる。
「あー、たのしみっ」
そう呟いて太陽を見て目を細めるとニヤリ、と笑ったのである。
「憂鬱だ…」
例の如く朝から机の上で突っ伏した隆平を眺めながら康高はパソコンのスイッチを入れた。
「憂鬱なのはせめて顔だけにしておけよ」
そう言って、康高は青白い顔をして目の下に隈の出来た隆平を見詰めると小さく溜息をついた。
昨日見た時よりも頬が若干こけている様に見えるのは恐らく見間違いでは無いだろう。
昨日の朝の時点では顔の色艶はそんなに悪くなかったはずだ。
だが今朝会った隆平はこの世の終わりのような顔をして、目を真赤に充血させていたのである。
その原因はまぁ容易に想像はついたのだが、朝から死にそうな顔が眼前に有ると言うのは良い心地はしない。
「お前、周りに不幸を撒き散らしてんじゃないよ。迷惑だろ。」
そう言って軽く頭を叩いてやると、隆平はわぁああ!!と泣き叫びながら康高に飛びついた。
「だって聞いてくれよ康高ぁああああ!!」
「話を聞く、一万。涙を拭く、五万、ぎゅっと抱きしめてそっと口付ける、十万」
「わぁあああああ!!!鬼!!悪魔!!眼鏡!!」
そう言ってぎゃあぎゃあと隆平が騒ぐが、クラスメイトは日常茶飯事だと、特に気にも留めない様子だ。
いつも通りの教室。
いつも通りのクラスメイト。
康高はその見慣れた光景にため息をついた。
土曜日の事を、隆平が康高に告げたのは日曜の朝食の後だ。
一晩経って幾分か落ち着いたのか、隆平は淡々と土曜の事件の詳細を順々に話始めた。
そして、康高の中で空白だった虎組と梶原達の喧嘩の全容がだんだんと明らかになって来たのである。
勿論、計画実行犯の康高は抗争までの経緯などは把握していた。
また抗争が終わったその日のうちに梶原から詳しい報告が届いていたが、隆平の目線から今回の抗争の見方や、実際に虎組とどういった交渉をしたかなど、新たに知る所は多かった。
しかし両者の報告で流石の康高も目を点にさせたのが、やはり隆平が九条を二度に渡り殴った事だった。
思わず目の前の隆平を触って怪我をしていないか確かめたほどだ。
そして「何故殴ったのか」という質問に、隆平は「別に」と答えただけで、梶原の報告では「九条が連れていた女の子のため」という風に書いていた。
よく知りもしない女のためにわざわざ九条を殴りに戦場に赴いたというのだ。
馬鹿、と隆平の頭を小突きながら
「自分から仲を悪化させるような事をしてどうすんだ。」
と窘めると、
「最初っから最悪なのにこれ以上どこが悪くなるってんだよ」
と、隆平にしては尤もな返答に、康高は顔を顰める事になった。
だが、どちらの話を聞いてもやはり腑に落ちない点がある。
九条の行動だ。
これは隆平と梶原の報告を聞いても不明な点が多い。
また掌を返した様に急に優しくなった和田宗一郎と、三浦春樹の存在。
これには、康高も険しい顔を見せた。