Penalty game

□penaltyG
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虎組の連中がみな和仁の駒である事はよく知っている。

和仁がまた何か良からぬ事を考えているのであれば、虎組に仲間が出来たという風に楽観は出来ない。
十分に警戒する必要がある。

そう、康高が一人思案していると、隆平が「かむぞ!!お前の制服で鼻をかむからな!!」と喚いている最中だった。
自分の腰の巻きついた隆平を片手で引き剥がしながら、康高はふ、と思う。

そういえば、他にも不思議な事がある。
梶原が土曜に言った言葉。

“予定外の収穫”

それは一体何なのか。

康高と梶原は同じ情報屋の仲間であり、二人共通の「ある目的」がある。

その目的を遂げるための計画というのは二人の間で着々と進められてきたのだが、どうやら梶原はその計画を円滑に進めるための「いい道具」を見つけたらしい。


計画を実行する次期はすぐそこまで迫ってきている。
それが楽に遂行できることにこしたことは無いが、如何せん梶原の「収穫」というのが康高には理解出来なかった。


そのことを漠然と考えながら、康高は未だ康高の片腕を攻略しようと奮闘する隆平を眺めた。

「(まぁ、こいつに害が無ければそれでなんだって良いか。)」

そう思いながら、康高は、ジ、と隆平を見詰めた。


隆平はいつもと同じ様子だ。
特別何かに落ち込んだり、滅入っている様子は無い。


だが、と康高は顔を少し歪める。
目の前ではこうして普段通りの康高の隆平だが、今回の話を聞いて、康高はある種の違和感を僅かながらに感じていた。

はっきり言ってしまうと、隆平の行動もはっきりとしない点があるのだ。
今まで隆平と過ごしてきた中で、隆平の行動の基準というのは大抵把握していきたつもりだ。
だが今回に限って、予想外の行動を、隆平は取った。

九条の女が泣かされていた点について、隆平ならば怒るのは当然だ。
この少年は幼少の頃から「女の子」は守るもの、という概念を両親から刷り込まれている。
まして自分の片割れが女であるという事からも、常にそういった意識を持っているのだ。
だから当然隆平は怒るだろう。


だが、それだけだ。
いつもの隆平なら怒って、…まぁ状況によっては泣かした本人に怒鳴りつける事はあったが、殴るまではしない。

相手を諭して、それで終わる。

普段が温厚な隆平は、よっぽどの事で無ければ人を殴ったりしない。
それなのに、隆平は二度も九条を殴ったというのだ。

紗希のためならば話は別だが、赤の他人のために何故。

隆平がそこまでして怒る理由が、康高にはどうしても理解出来なかったのである。
それが、隆平の知らない一面だという事に、康高はどこか居心地の悪さを感じていた。

赤の他人、といえば自分と隆平だってそうだ。
全く別の人間なのだから知らない部分があっても不思議では無いし、それが当然。
それに、自分も隆平に秘密くらいはある。
それなのに自分ばかりが隆平の全てを知ろうというのは身勝手な話だった。

それに「はぁ」と思わずため息を漏らすと、相手にされていないと勘違いをした隆平がぶすっと顔を顰めた。

「こんにゃろお!!!何だよさっきからボーっとして!!良いからおれの話を聞けよ!!昨日おれがどんな恐ろしい目に遭ったかぁああ!!」

「はいはい。佳織さんに怒られたんだろう。よしよし、可哀相にな」

間髪入れずに答えた康高は既に立ち上がったパソコンの画面を見ながら、まぁ良いか、と肩の力を抜く。

多くを求めてはいけない。
そうで無くても、最近自分はどこか急いている傾向がある。
今大事なのはこの幼馴染を虎組連中から守る事。

自分に言い聞かせながら、康高は頭を整理させようと、小さく深呼吸をした。
求めれば、おのずと答えは見付かるものだ。

そう考えてメールチェックをしようとした瞬間、教室中が異様にざわめいたが、康高は隆平の叫び声しか耳に届かず、気が付きもしなかった。













「やっほ〜みんな元気ぃ〜?」

ニコニコといつものように挨拶をすると、あちこちから少し緊張した様な挨拶が次々に返ってくる。
それに満足そうに「はい。おはよぉ」と適当に返して、和仁は所定の屋上の所定の位置へ向かい、「あれ?」と首を傾げた。

「九条来てないのぉ?」

近くに居た男に聞くと、「今日はまだ見てませんよ」という返答が返って来て和仁は顔を顰めた。それからポリポリと頭を掻くと、まいったな、と呟いた。
土曜の一件から、幾度と無く九条に電話やメールをしたのだが、一向に通じないのである。

痺れを切らして自宅に向かったが、家に人の気配は無いようだった。
侵入しようと思えば出来たのだが、日曜は女の子と約束があったので渋々諦めたが、今も帰って無いのだろうか。

「逃げた、か?」

首を傾げた和仁は、九条の指定席を見詰めながら、ボソッと呟いた。
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