Penalty game

□penaltyL
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「仕方ねぇよな。」

神妙な顔をして周りを見渡しながら呟いたのは三浦だ。

「こんな風になっちゃさ…、もう方法が一つしかねぇと思うんだよ、オレ…。」

「わかった…手加減はしない。」


もう後には戻れない、と三人はグッと拳を握りしめて頷いた。





「「出さなきゃ負けよ、最初はグー!!あ、ジャンケンぽん!!!」」







大変なことが起こっている。



それが三人共通の認識であった。

昼休み終了のチャイムが鳴ったが、授業が始まる様子はない。

先ほど全校放送で教員に招集がかけられたのと同時に、生徒には自習が言い渡され、校内散り散りになっていた教職員が慌ただしく廊下を駆け抜けてゆく様が見受けられる。
その物々しい雰囲気に教室内の生徒達は恐怖心と同等の好奇心に支配され、当然自習どころではなくり、様々な憶測に沸いている。


それは彼らも例外ではないようで、件の三名もまた、教室中がそうであるように額を寄せ、真剣な面持ちで「いっせーので」という掛け声で同時に口を開いた。

「九条センパイ」
「聖和代」
「うちの学園祭」

上から三浦、康高、隆平である。
それぞれがテーマにしたい事柄の行き違いに、三方の表情が曇った。

「「「…」」」

そう、大変なことが起こっているのは明らかなのだが、各々が抱えるテーマは三者三様。
そこで提案されたのがジャンケンであった。
三浦から提案されたこの端的かつ明快な平和的打開策は、平等を好む隆平と康高を納得させるには十分適切でクリーンな勝負方あり、二人は真面目な顔でその提案を呑み、己の握りこぶしを差し出したのである。


結果は…


「それで、なぜお前ら二人が聖和代の文化祭に行くことになったんだ。」

「比企康高、ジャンケンが強いなんて空気よめてねえぞ!!」

「頭が良いくせにジャンケンも強いなんて神様は間違ってる!!」

「失礼な奴等だ。」

頭の良し悪しでジャンケンの勝敗が決まれば苦労はしない。
ジャンケンに頭で勝つには、人並み外れた動体視力が必要な上、瞬時の判断が問われる。
あいにくと康高の目の悪さは小学生からの筋金入りだ。
ジャンケンに勝つには常人と同じく運だけがものを言う。
勝敗にトリックなどない。

「それにもし万が一神様のテコ入れがあったとしても、話の重要性を考慮しての、全く順当な結果だろ。とりあえず負け犬は負け犬らしく質問に答えて下さい。」

「きいいいい!!!腹立たしい!!!」

康高の言葉に、隆平がハンカチを噛みながらギリギリと歯ぎしりをしたが、逆に三浦は誇らしげに胸を張って堂々と答えた。

「えっと、オレが聖和代に行くのは、千葉隆平が誘ってくれたから!!」

以上!!と胸を張る三浦に、康高は眉間にシワを寄せて深い溜息を吐くと、ハンカチを噛んだままの隆平の頭を勢いよく両手でがっしりと掴み、自分の方へ引き寄せた。

「隆平…お前よりによってなんでアレを選択した…。」

「ねえ康高さん、聞いた?今おれの首ボキって鳴ったんだよ…。」

人間としてはあり得ない体制のまま、顔面蒼白で絞り出される隆平の言葉を無視して、康高は「お前な、」と声のトーンを落とす。

「もっと他に適当なのが居ただろ。あんな、さも不良ですと言わんばかりの奴を選んで、一体紗希になんて説明する気だ。」

「だって…。」

ぶすっと唇を尖らせる隆平の気持ちが康高も分からないわけではない。
この二人が互いに理解を深めて仲良くするのを康高は否定したいわけではないのだ。
三浦は馬鹿だ。馬鹿で正直でいい奴だ。
だが、それと聖和代の文化祭に行くというのは話が別だ。

「もし万が一何かあれば、迷惑するのは紗希だぞ。」

「なんだよそれ!!」

康高の言葉にムッとした隆平は、康高の手を顔から外すと、逆に康高へ迫った。

「そんなに紗希が気になるなら来れば良いじゃねぇか!!だいたいお前、当日来もしねぇくせに文句言うな!!!!紗希がすげー楽しみにしてたのに用事があるなんてどの口が言ったんだよ!!?康高のアホ!!!メガネ!!オタク!!二次元!!メイド萌え!!」

「お前それはオタクへの偏見だ。」

ちなみに俺は目の前の動物の方がよっぽど萌える、と心中でぼんやりと思った康高の胸倉を掴みながら、その目の前の動物が「うるせー!!」と怒鳴った。

「とにかく!!お前は来ないんだから!!チケットだってもう三浦君に渡したし、これから他の奴になんか代える気だってねーからな!!」

ふん!!と頬を膨らませてそっぽを向いた隆平を前にして、康高は「他の奴…」と繰り返すと代わりになりそうな候補を脳内で挙げてみた。

『安田…は駄目だ…紗希に下心がある…、渋谷は隆平に甘いから却下…加藤は紗希が嫌ってたな…天野…は俺が個人的に嫌だ…』

中学時代までに仲の良かったメンツはこれで全滅である。
高校のメンツも、いまいちパッと思い浮かぶ人間が居ない。ほとんどグループ単位での付き合いのため、どこか遊びに行くにしても5、6人ほどの行動が基本だ。
何より…隆平が誰か1人、という選択はいつでも康高だった。

「…仕方ない…。」

観念して康高が溜息をはく。そっぽを向いていた隆平がこちらを見たのが分かったが、康高は珍しく不安げな三浦の方へ顔を向け、声をかけた。

「…三浦。」

「な、なんだよ…」

「…大人しくするんだぞ。」

康高の言葉にパァ、と顔を輝かせた三浦には、見間違いでなければ耳と尻尾が見えた。

「ひ…比企康高ーーー!!!!」

その尻尾を千切れるようにブンブンと振りながら、三浦がこの上なく嬉しそうに突撃してきたので、康高は隆平を抱えたままはするりと華麗に彼の突撃を避けた。

「…それで?」

そのまま後方に勢いで吹っ飛んだ三浦が、強打した頭を涙目で抱えているのを無視して、康高呟いた。

「次は誰だ?」









「まぁ、順当に行けばオレ等の誰かなんだろうねぇ…。」

肩を竦める和仁に小山が怪訝な顔をして「まさか」と吐き捨てる。

「いや、だって待てよ。九条が今回の一件で処分を受けるのは仕方ねーことだろ…なんでオレ達まで…」

「理由が理由だからなぁ…。今回先に手を出したのは向こうだって言うし…。」

ふああ、と欠伸をする和仁の横で和田が「なるほど」と呟いた。

「連中が俺等をしつこく追うのはそれか。」

「うーん、ってオレは思うんだけどねぇ…。」

「おい!!わけわかんねーよ!!どういう意味だ!!」

怒鳴った後ハッとした小山は、慌てて口を噤んだ。
自分たちが隠れていたことを思い出したらしい。

「なんで、オレ達まで処分されなきゃなんねーわけ…!」

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