好死は悪活に如かず

□好死E
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「おい、なぜ撃つ!!!」

「うるせぇクソメガネ!!!!!てめぇの頭はスカッスカのピーマンか!!!!交渉の邪魔しやがってテメェらは!!!!」

ブチキレている小五郎は、逃げ惑う通武と山縣に容赦無く発砲を繰り返した。
的を外れたらしい銃弾が部屋の壁あちらこちらに穴を作り、そこから硝煙が上がっている。

「チョロチョロチョロチョロと…」

「落ち着け。話せばわかる。」

山縣が真面目な顔をして台所のカウンターから頭だけ出すと、脇腹辺りを銃弾が掠め(幸い身体には当たらず)ジャージに焦げ穴を空けられた通武が、山縣を片手で制した。

「待て、俺が話そう……おい、ひよこ暴力団。」

「なんだ竹光侍」

完全に目が据わっている小五郎を前に、通武は彼の目を見据えて怪訝な顔をした。

「前見た拳銃と形が違うが…一体何丁持っている…」

彼の質問に、小五郎は無言で通武に一発ぶっ放した。それを仰天しながらギリギリで避けた通武が思わず木刀を構える。

「あ、危ないではないか!!!」

「黙れ動くな、このピーマン野郎、頭に風穴開けて、中になんか詰めてやる。」

「だから…、なぜ撃つん、だ!!!」

ガッ、と木刀が小五郎の利き腕を弾き、手から離れた拳銃が宙を舞う。

「見たか!!」

それを好機と通武は小五郎の懐に入ろうとしたが、同時に小五郎は素早く後腰からもう一丁の拳銃を抜くと、通武の顎に銃口を当てがった。
それは丁度、通武が小五郎の首筋に木刀を這わせたのとほぼ同時。

「………だから…何丁持っているんだ…貴様は…」

顔面神経を強張らせた通武を見て、小五郎は軽く唇を舐めると「覚えとけ」と呟いた。

「世の中には思わぬ所から伏兵が出てくる事があるんだよ。」

通武の表情が苦々しいものへ変わるのを目で追っていると、「その通り」という声が聞こえ、同時にカチャン、と乾いた音が小五郎の脳髄へ静かに響いた。

「その伏兵が敵ばかりだとは限らない。」

「…⁈」

気がついた時には遅い。
小五郎の後頭部には彼の持ち物であったはずの銃口が向けられて、口だけのバン、という効果音。

「自分を守るべきものが、反対に危機をもたらすこともある。」

覚えておけよ、と言って拳銃をぞんざいに投げ捨てた人物の声に、小五郎は驚きを隠せず、また振り返ることもできなかった。

代わりに、その姿を見た山縣が思わず顔を歪めて「げ」と零す。

「…栄、太…」

そこにいつの間に現れたのか、美しい少年は冷たい視線で部屋を見渡すと「やれやれ」と呟いた。

「うるさいんだよ、お前ら。」

せっかく気持ちよく眠っていたのに、と吉田栄太は折り目のついたパジャマで寝癖のついた頭をポリポリと掻くと、口に手を当てて欠伸をした。
それからようやく振り向いた小五郎に、栄太は落ち着いた声で「それで?小五郎。」と、いかにも退屈そうに目を細めた。


「こんな所で遊んでるってことは、素敵な【ハウスキーパー】は見つかったわけだ?」

「…」



全く、ぐうの音も出ないとは、まさにこのことであった。







「で、こいつらが水を差す形になったわけだけど、結局さっきのケータイの相手は何者だったんだ?」

こいつら、とカオルに言われた山縣と通武は納得していないような表情で、正座させられたまま口をへの字に曲げている。
しかし、一番納得していない顔をしていたのは当の小五郎だった 。

「ちょっと待て。その前にこいつをなんとかしろ。」

こいつ、と言われたのは、食卓に座り、紅茶を飲んでいる栄太。

「心外だね。ここはお前の部屋か?」

「…大事な話をしている。」

「おかまいなく。」

「まぁまぁ…」

小五郎と栄太の微妙な空気を把握できないカオルは当たり障りなく「穏便に」と言うしか無い。
小五郎の発砲に気絶していていたカオルは、彼らの関係性がどういったものか今ひとつ把握できていなかった。

栄太に起こされ、彼の顔をみたカオルは慌てて経緯を説明しようとしたが、栄太は「大体知ってる」と素っ気なく返答した。

「あんなにうるさくしておいて、聞こえてないわけないでしょ。」

馬鹿なの?と言われ、カオルは思わず苦笑いした。
彼の言う通りだ。
そんな栄太は全く彼らの存在を気にすることなく、台所でカチャカチャと何かしている。
小五郎はそれが気に障ったらしいのだが、今は悠長にそんな話をしている場合ではない。

「とにかく話を進めよう。栄太は手伝ってくれることはあっても、邪魔することはしない。」

だろ、と促され、小五郎は舌打ちしたが、それ以上は何も言わなかった。

「それで、どうなんだよ。」

再びのカオルの質問に、小五郎はため息をはいた。

「さあな…そんなの知らねぇよ。」

「え?」

「今時変声くらいケータイのアプリでも出来る時代だ。特定は難しい。色々と聞き出す予定があの馬鹿どもに邪魔されたしな。」

「…相当根に持ってるな。」

「そういう奴なんだ。」

呟いた山縣の言葉に通武が頷くと、小五郎は眉をぴくりと動かして牽制したが、当の2人は知らんぷりである。
そんな小五郎を前にカオルは眉を顰める。

「じゃあ…なんで俊輔の居場所を電話の相手が知っていると…?」

「…」

小五郎はカオルの方に顔の向きを戻すと、不意に件のケータイに視線を落とした。

「…普通に考えて、他人のケータイを欲しがる理由ってなんだよ?」

「…理由?」

「まぁ…それぞれ個人的な問題があるにしろ、共通するのは、そのケータイの中に、何か欲しい情報がある、ってことじゃねぇか?」

そしてその情報には少なくとも二通りある、と小五郎は続けた。

「例えばそれを知ることにより、自分にとって有益、あるいはプラスになる情報。…そしてもう一つは、誰かに知られたら困る…流出させたくない、マイナスの情報だ。」

「…なるほど」

「もし、それが後者なら…お前らならどうする?必死になって探すよな。情報元はどこだ?ケータイだけ回収して解決するか?」

「…」

「ケータイは単なる証拠に過ぎねぇ…情報元は人間だ。だとすれば当然ケータイの持ち主にも接触するはず…。」

コン、と叩かれたケータイの画面をみつめて、カオルは言葉を失った。

「…で、カマかけてみた。あながち間違ってるわけでもなさそうだったけどな…ただ、今のは全部憶測の域を出ない。詳細は何一つわかんねぇ。」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ…今の話だと、つまり…」

「…なんだよ」

「つまり…俊輔は、誰かに捕まってる可能性があるってことか…?」

「………さあ…」

どうだろうな、と小五郎は小さなため息をついた。
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