□ぶらっくゆーもあ?
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出会って4ヶ月。付き合って2ヶ月。
俺と篠岡は未だに苗字で呼び合っていた。
もちろんそれでもよかった。
篠岡が隣にいてくれさえすれば、
それでよかった、と、思い込んでいたのかもしれない。
今となって思えばの話しだが。

正直俺は物足りなくなっていた。
恋人同士がするようなデートやキスは何回かした。
あんなことやそんなこともした。
だけど物足りなかったのは、苗字呼びの事実。
俺は、篠岡を千代と呼びたかったのだ。

名前で呼び合わない?

そう言いたくて昼休みに篠岡を呼び出した。
きっと返事はいいよ、とか、うん、とかに決まってる。
「なぁに、水谷くん」
「あーあのさ」
「?」
いつものようにふんわりと微笑んでこっちを見ている篠岡。
ああ、きっと俺の希望は叶えられる。
そう確信を持って、俺の希望を口にした。
「そろそろ名前で呼び合わない?」
「え?」
「ほら、だって付き合って2ヶ月も経つし…」
「名前で呼びたいの?」
「…うん」
篠岡は目線を落とした。
何を考えているのかは予想が出来なかった。
なんとなく、ぞわりと寒気がする。
「篠岡?」
「あのさー水谷くん」
「ん?」


「嫌」


きっぱりと言われた。
振られたわけじゃないのに、そんな気分だった。
それでも篠岡の笑顔は崩れない。
笑顔のまま俺を見る。
「な、んで」
「特に理由は無いけど」
ふふ、と笑う。何がおかしいのか、分からなくて。
少し篠岡が怖いと思った。
「まぁ…嫌なら、別に…」
「話ってそれだけ?」
「あ、うん」
「ふーん」
声は弾んでいて、表情は俺の大好きな篠岡の笑顔。
それなのになんだか。いつもと。違う。

「じゃ、私行くね!」
篠岡はくるっと踵を返して教室へ戻ろうとする。
ただただそれを見ているだけの俺。
かすかに聞こえたあの呟きは
篠岡のものじゃなかったと信じたい。





「馬鹿な水谷くん」




ぶらっくゆーもあ?
(ね、俺のこと嫌いになったわけじゃないよね?)


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