□相手は人形
1ページ/1ページ

「何それ」

山ノ井が抱えているピンクの物体。
ぬいぐるみか?なんだ、こりゃ。
慎吾が気になって尋ねてみると、返ってきたセリフが

「え?うさみ」

というものだった。
それは物体自体の名前なのか?
正式名称はうさぎのぬいぐるみのようだ。

「なんでそんなもの」
「俺うさみないと寝れないから」
「はぁ?」

まるで小学生のようなことを言い出す山ノ井。
慎吾はまるで意味が分からない。
同い年、付き合いも長いはずなのだけれど。

「前泊まりに来たときはそんなもん持ってなかったよな?」
「最近だから、うさみに出会ったの。ていうか再会?」
「再会?」
「そ。この前部屋から発掘されたんだよね」

発掘という言葉使いは間違っていない。
なぜなら山ノ井の部屋はまるでゴミ山のような汚さだから。
時折山ノ井の母が片付けているのだが、いつの間にか散らかっている。
散らかしている自覚がないのが困りものであるのだ。

「…で、俺んちにも持ってきたのか」
「そー。変態から俺を守ってくれんのはうさみだけだから」
「うさみって、アレか」
「そう、あのマンガの影響」

2人通じ合う。
某ギャグ漫画の影響であるようだった。
山ノ井らしいといえば、そうなのだが。

「つーか、俺変態?」
「変態…スケベのがあってる?」
「どっちも嫌なんだけど」
「はは、気にすんなよ変態慎吾くん」

酷い呼び名だが、正直もう慣れっこだ。
慎吾は心底疲れきった表情をしている。
たかがこれだけの会話なのに。

「まぁなんでもいいけどよ」
「じゃ、おやすみ慎吾」
「え?もう寝んの?」
「俺夜更かししないから!お肌の敵だから!」
「兄貴の彼女もそんなこと言ってたなぁ」
「えー女じゃねーよ、俺ぇ」
「はぁ(十分それに近いフェロモンはある気がするけど)」
「俺マジ寝るーうさみ、寝ようなー」
「…おやすみ……」

なんとなくうさぎのぬいぐるみに嫉妬する慎吾なのでした。



相手は人形
(「マジで寝てんの?」「寝てるー」「起きてんじゃん!」「ぐー」「(えぇー!)」)


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ