□休日の過ごし方
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――あれって、桐青の野球部じゃねぇ?
――マジだ!こんなとこにも来んだなー
――あの黒髪の、ほら、今こっちちょっと見た奴…タカセだよな
――詳しいな、お前
――で、あのハーフっぽいのは…名前忘れたけど、新しいキャッチャーだよ





喧しい上にチョーシツレイ。

久しぶりに準さんと2人で出かけられたのに、さっきからどこかの野球部が俺たちを見てくる。
折角のデートが台無しだ。
見世物パンダになるのが嫌な準さんも、やっぱり苛々してるし。

「じゅ、準さん、ほっとこーよ」
「あぁ?俺なんも気にしてねーよ?全然気にしてねーよ?」
「…っ、ハンバーガー!潰れてる!ハンバーガー潰れてる!」

桐青高校野球部エースの右手に潰され、悲惨な形になったそれは、なによりの被害者な気がした。
手ェ汚れちまったよ、と席を立つ準さんは、そのままトイレへと向かった。
ぽつんと一人になった俺は、チクショーという意味を込めて先ほどこちらを見ていた奴らへ視線を向け、ほんの少し睨む。
人を睨んだらいけないとばあちゃんに教えてもらったから、少しだけ。

「りーおー」

準さんのものではない声が、そう広くない店内で響いた。
知っている声、ていうか、なんかもう本当に今日は厄日なのかな、ばあちゃん。

「山さん…」
「何してんの?準太は?トイレ?ジロジロ見られて苛々してハンバーガーでも潰したの?」
「なんで分かるんすか!?」
「ほら俺エスパーだし」
「違う違う、見てたの。俺たちさっきからあっちに居たの」
「マジ!?」
「あーなんで本山はすぐ言っちゃうかなぁ」

山さんと一緒に居た本さんが指したあっちというのは、俺たちの座っていた席のガラスを隔てて斜め右。
こんなに近くに居て気づかないなんて自分でもびっくりした。
ということは全部聞かれてたのか…まあ、ここに来てした会話なんて、和さんの大学が決まったねーという話と明日の練習試合の話だけだけど。
ああ、あと潰れたハンバーガー。

「ていうか、もっと早く声掛けてくださいよ」

トイレから戻ってきた準さんが手をひらひらさせながら言った。

「準太、トイレから出てくるときはちゃんと手拭きなさい」
「ばい菌ついちゃうわよ」
「気持ち悪いです、すんません」

その「すんません」がどこに掛かるのかがちょっと気になるけど、それより。

「本当に、なんで声掛けてくんないんすかぁ」
「だってデートの邪魔しちゃ悪いと思って」
「じゃあ最後まで声掛けないでくださいよ……」
「つーかデートじゃないでーす」
「ま!この子ったら一丁前に照れちゃって!」

きゃ、ツンデレ!なんて言いながら、山さんと本さんは笑いあっている。
準さんのほうは怖くて見れない。
だってなんか、凄く嫌なオーラを感じるんだもん。

ふと俺たちのデート(準さんが否定してもこれはデートだ)を最初に邪魔した奴らを見る。
って、もう居ない。なんなの、くっそー。
この調子だと俺の立てたデートプランはおじゃんになりそうだし。
俺も泣きそう。家で枕濡らしそう。

「2人は何やってたんすか」
「野暮なこと聞くなよっ」
「デートに決まってんだろー!」
「そうですか、じゃあ俺たちもう行きます」
「こら準太!さっきからその態度はなんだ!」
「え、準太反抗期?」
「利央の奴が、なんか拗ねてるんで」

へ?

「な、なななに?俺?」
「お前行きたいとこあんだろ?ほら、行くぞ」

そんなこと一言も言ってないのになんで準さん分かったんだろう。
準さんこそ本物のエスパー?
それとも、俺、自惚れちゃってもいいのかな。

「おーおー行って来い」
「付いてこないでくださいよ、山さん」
「そこまで俺たち暇じゃないしー」

うまく頭が回らなくて、ぼけっとしていると腕を引かれた。
背を向けた準さんを見てみると心なしか頬が赤い気がする。
やっぱり自惚れていいみたいだ。

「準さん!今日このあと準さんちね!」
「わぁーった!分かったから静かにしろ!」

今すぐ準さんダイスキー!と叫びたかったが、ハンバーガーの二の舞になるのは嫌だったからぐっとこらえた。




「…羽ばたいていくね」
「そうだな。俺たちももうすぐ羽ばたくけど、俺たちより羽ばたきそうだよな」
「ぶっちゃけ後輩がホモってのも考えもんだよな」
「いや、もう俺たちはそこに触れちゃいけないんじゃね?」
「そーかー?」


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