ランドセルを背負った子どもたちが目の前を過ぎる。
別れの道で、無邪気に手を振り合う彼らは、口々に言う「さよなら」の意味を知らない。
緑の風が吹く小道を駆けて、家へと帰るのだろう。
俺にはまだ、帰る場所があるだろうか?
兄貴が死んで、涙が枯れるまで泣いた。枯れてからも泣いた。
幾度巡る季節を待てど、兄貴は帰らない。
「俺を置いて、どっかに行かないでくれ」と言って縋ったのは、一人きりになるのを恐れていたから。俺は、兄貴がいないとダメだから。そして悲しいことに、それは間違いではなかった。
この世を去りし兄貴を想えど、救われない千切れた気持ち。
兄貴の部屋で、長すぎる夜を上手く眠ろうとするばかり。
夢の中でも良い。
兄貴に会いたい。
潤也。
両親を亡くし、兄貴まで亡くした、可哀想な俺の弟。
さよなら、お別れだ。
俺はもうお前のところへは帰れないけれど。見守っているよ。ずっと一緒だ。
だから潤也、せめて泣かないで。
あんなにも愛してた、俺たちの日常を誇れ。
(フィルムズ)
20091013