WJ

□テニスの王子様
2ページ/6ページ


追う者、追われる者。

「おい、越前!お前の携帯、鳴ってんぞ」

「あぁ……ほっといて下さい」

「ほっとけったって…あんな不気味な音、早く止めろよ…」


ベンチに置かれたリョーマの鞄からは、桃城が不気味な音を称す曲が流れていた。

桃城に言われて仕方なく鞄から携帯を取り出して音を止めた。
つまり、電源を切ったのだ。

「お前っ!電源切ったのか!?」

「良いんスよ、ストーカーからだし」

「ストーカー!?おいおい、危ねぇじゃねーか!」

何故か優々としているリョーマを見て、桃城は心配になる。

「何かされたりしてないか?警察には連絡したか?」

「何かされまくりっスよ。毎日電話くるし、休日は家に押し掛けてきたりするし…」

「はぁっ!?そりゃ、ヤバいだろっ、早く捕まえてもらえ!」

「そーっスね…」

桃城が心底、可愛い後輩の心配をしているのに、相変わらずリョーマは冷めた態度。

「少しは危機感持てよ…」

「あー…多分、その危機がもうすぐ来ますよ」

「ストーカーがかっ!?」

リョーマの言葉に、桃城は辺りを見回す。


今、二人はストリートテニス場にいる。
珍しくリョーマから電話が来て、朝早くからテニスをして休日を過ごしていたのだ。


「…お前は俺が守ってやるからな!」

後輩の危機に、先輩である桃城が頼もしい声をあげる。
しかも、この言葉にはリョーマも心動かされたようで、くるりと振り返って桃城に近寄ってきた。

「本当っスか?」

「へ?」

「桃先輩、俺のこと守ってくれます?」

「おっ、おう!」

今の今まで全く無関心だったリョーマが、いきなり態度を変えて、しかも自分に頼ってるとなれば桃城が燃えぬはずがない。

「絶対っスよ!」

「おぉっ、とっ捕まえてやるよ!!」

「何を捕まえるって?」

突然、張り切っている桃城の後ろから声がした。
聞き覚えのある声に桃城は振り返る。

「跡部さんっ!?」

「よぉ、桃城」

今日はいつものお供を連れていないようで、自分の肩にテニスバッグをかけた跡部が、二人の前に現れた。

「何の話だ?」

「ストーカーを捕まえようと思ってるんスよ」

「ストーカー?お前、そんなもんに遭ってんのか?」

「いや、俺じゃなくて越前の方です」

桃城が自分の後ろにいるリョーマを指さしながら言う。
すると、跡部は目を見開いてリョーマを見た。

「ストーカーに遭ってんのか!?」

急に跡部が動いたかと思うと、物凄い速さでリョーマの元へと駆け寄って肩をわし掴みする。

「…はぁ、それはもう過激っスね」

「何された!?」

「毎日電話してきて、今日みたいな休みの日には、何処からともなく現れるんス」

「どこのどいつだっ!?」

二人のやり取りを見ていて、桃城は気付いてしまった。
リョーマのストーカーが誰なのかを。

しかし、恐ろしくて何も言えずに つっ立っていると、リョーマと目が合った。

「桃先輩、約束っスよ」

「うぇっ…」

目で訴えてくるリョーマに、桃城は無け無しの勇気を絞り出す。

(後輩が困ってんだ…助けてやんのが先輩の役目だよな…)

「あのっ…越前を…放してやって下さい」

「あぁん?」

どうやら桃城には向かう敵が大きすぎたようだ。
跡部の睨みに一瞬で怯んでしまう。

「桃先輩っ!俺を守ってくれるんでしょ!?」

そんな桃城にリョーマは叱咤するが、逆に跡部がやる気になってしまった。

「俺がお前を守ってやる」

微かに、リョーマの肩を掴む跡部の手に力が入る。

そして遂に、桃城は使えないとでも思ったのか、リョーマは自力で向き合いに出た。

「なら、今すぐ俺から離れて下さい」

「…?」

「…あんた、身に覚えないわけ?毎日電話してくるし、今日だって何でか俺の居場所知ってるじゃん」

「……」

これには流石に跡部も気付いたようだった。

「俺様をストーカー扱いするのか?あーん?」

「ストーカーじゃん!何で居場所が分かるわけ?」

「それは俺の電話に出ない……そーいえば お前、さっき電源切っただろ!?」

「着信拒否にしないだけ、良いと思えば」

「お前…」

何を思ったか、跡部は急に黙って目の前のリョーマを抱き締めた。

「うわっ、ちょっと何!?」

「何だかんだ言って、俺のことが好きなんじゃねぇか」

「はあぁ?何で そーなるんだよ」

跡部の俺様的見解がリョーマに分かるはずもなく、抱き締められている体をなんとか放そうと奮闘する。

「俺からの電話、待ってんだろ?」

「あーーっ、この人バカッ!!」

「バカァ!?」

跡部の腕の中でジタバタしながら、リョーマは傍観者になっている桃城に再度、助けを求める。

「桃先輩っ!」

「えっ!?」

「桃城っ!!」

「うわっ」

リョーマの助けを求める声と、跡部の脅しかけるような声。
如何にすべきか、桃城は悩み悩んだ揚句に、

「良い練習相手が来て良かったな、越前!俺は用があるから帰るな」

己の保身を考えて逃げ帰った。
確かに、跡部を敵に回せば、今後の人生が恐ろしい事に成り兼ねないが。
とにかく、桃城は後輩を置き去りにして逃げたのだった。



「ふっ、良い先輩を持ったな」

「…にゃろう……」

リョーマは走り去る桃城の背中を睨み付ける。

「いい加減、お前も素直になれ」

「何がだよ」

跡部より背が低いリョーマが、跡部を見上げるような形になるのは当然で、どうしても上目遣いになってしまう。

怒っていても可愛いかったら仕様が無い、と跡部は思っていたりする。

「ったく…誘ってんのか?」

「何っ…んんっ!」

リョーマの顔が上を向いているのを良いことに、跡部はキスを仕掛けた。
右手でリョーマの頭を、左手で腰を抑えつけて身動きが取れないようにする。
しかも、リョーマの口が開いた瞬間を狙ったので、跡部は簡単にリョーマの口内に舌を滑り込ませることが出来た。

「んっ…ふうぅっ…うっ…」

何とか腕に力を入れて、跡部の胸を押しながら必死に抵抗するリョーマを、跡部は軽く押さえ込む。
あわよくば、そのまま その後の行為にまで及んでしまおう、と跡部が考え始めた その時、

ガリッ

「っが!…っっ痛ぇー!!」

リョーマは侵入してきた跡部の舌を噛んで、それ以上の続行を阻止した。

「変態ストーカーッ!!」

顔を真っ赤にしながら、リョーマが跡部に罵声を浴びせて自分のテニスラケットとバッグを引っ掴んで、ストリートテニス場から逃げるようにして出て行った。

取り残された跡部は、噛まれた舌の痛みと、あまりに一瞬の出来事に呆然としながらも、リョーマへのリベンジを固く誓ったという。




次の日から一週間、桃城はリョーマのパシリとして一日中こき使われた。

跡部はというと、とうとうリョーマに着信拒否に設定された為、様々な手段を駆使してリョーマのストーカーを続けている。




END






後書

改装前のリョ受サイトでの初小説でした。

050222

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ