WJ

□BLEACH
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※教師拳西×生徒一護 設定





「拳西」

先生とは呼ばない黒崎。
俺にだけでなく、教師たち全員に対してそうだった。
あの、とか、すみません、とか。
俺は名前を呼ばれているだけ、マシな方。

「拳西」

俺たちは、教師と生徒という関係ではあったけれど、言葉を尽くさずして会話ができた。できたはずだった。

「黒崎。お前は俺の、生徒だ」

だから、名前を呼ぶだけで全てを伝えてくる黒崎に対して、同じように、言葉少なに返したのに、黒崎は酷く悲しそうな顔をして、無言のまま俺から背いた。

違う。そうじゃないのに。
教師という立場が、手を伸ばすことすら躊躇わせた。



屋上は、俺と黒崎の場所。
普段は施錠されている屋上に、教師権限で鍵を持ち出し、二人で過ごした。

俺は黒崎の担任でもなければ、教科担当にもあたってないから、黒崎が屋上に来なければ、会うこともない。知ってたのに。

それからも、日課と化した屋上通いをやめることもなく。
フェンスに寄りかかりながら、黒崎は何をしているんだろうかと、思い巡らす。


手元の太宰は、俺を更に憂鬱にさせる。


  もはや、自分は、完全に、人間でなくなりました。


文庫本から目を離して、空に溜め息を吐いてみた。

くだらなくて笑えてくる。
俺も好きだ、とただ一言伝えれば良かったものを、隠してしまったんだ。
それなのに、ひたすら待っているだけの俺。
自分の浅ましさが嫌になる。

このままでは、落ちる気分に任せて自分の身体も墜としてしまいそうだ。

ふと気配を感じて屋上の扉を見れば、向こう側にいるのであろう人影。
磨り硝子越しにも分かる、オレンジ色。

黒崎だと頭で理解するよりも、心臓が大きく音を立てるよりも早く、足が地面を蹴っていた。
ドアノブに手がかかる寸前、オレンジしか見ていなかった目が、もう一つ人影を捉える。黒崎一人ではなかったのか。

ドアの向こうの会話が、くぐもりつつも聞こえる。相手は男だ。

「どうかしたのか?」

黒崎の声を聞くのは久しぶり。
あの日以来、姿を見ていないことや、声を聞いていなかったことが実感として湧いてきた。

二人が屋上に出る気配はない。
まさか鍵が開いているとは思わないのだろう。黒崎が俺の話をするとも思えない。

人気のない屋上の扉の前。
他人に聞かれたくない話をしているのは明白で、現に相手の男が、実は、と切り出した。



「お前が好きだ」



誰といるんだ。
どうして俺には、ぼやけた姿と声しか届かないのだと嘆く。
いっそ泣き叫ぼうか。

今にもこの扉を開きそうになるのを、必死に堪える。
黒崎の返事を、俺も待つ。



「ごめん、俺、好きな人がいるんだ」



黒崎がどんな奴かなんて、分かっている。
そう簡単に、誰かを好きになったりはしない。
これは自惚れではない、はず。
この、はず、こそは間違っていない。はず。


「ごめんな、ありがとう」


粘りをみせた男に、そう言った黒崎。
眉間の皺を更に深くして、至極申し訳なさそうにしているのだろう。
その表情には、きっと男も──黒崎に惚れているならば尚更──勝てない。


一人分の足音が階段を降りていく。
磨り硝子のオレンジ色がなくなっていた。

早く、早く。
どいてくれ。黒崎を追わせてくれ。

瞼を閉じる。それだけで、今ここにいない黒崎が浮かぶ。

ノブを強く掴んだ。

早く、早く。
黒崎の笑顔が見たい。





(Lost Moon)(今宵、見えずとも)






後書
教師拳西×生徒一護
拳一ってだけでマイナーなのに、更に先生と生徒。


ほぼ独白。誰でもいい感じになってしまった。
少しでも歌詞に沿わせたくて……屋上で太宰、が書きたかった。


20090223

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