スマブラ小説

□ある昼下がり
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君の喜ぶ顔を見るためなら、
僕は、何だってしてあげるさ…









それはある昼下がりの事。



「よしっ、チャンス到来!!」

期待と緊張に、弾む心、翻るマント、揺れる青髪。
その腕に大事そうに抱えられているのは、金箔が上品にあしらわれた白い紙の箱。
箱の側面には、これまた気品溢れるような字体で『高級洋菓子店・リラ』と銘打たれている。

これだけだけでも、かなり高価だという事が察せられる。

かの洋菓子店は、老若男女問わず人気があるらしく、財政力にものを言わせても、このケーキが届くまでにはかなりの時間を要してしまった。

「…早くリンクの喜ぶ顔が見たいなぁ〜っ」

リンクが喜んでくれるか思案していると、思わず顔が綻ぶ。

"高級"洋菓子店の名は伊達ではないらしく、箱の中からほのかに漂う香りは、甘い物がそれほど好きではない僕の心をも引き付けてやまない。

なら、甘い物が大好きなリンクはどんな反応を示してくれるのだろうか?


「笑ってほしいな。」

楽しみな事がある時のマルスの足取りは、かなり軽い。
半ば跳ねるようにして、食堂で食器の後片付けをしているリンクの前に立ち止まる。

「リーンク、お茶しない?」
「…あ、それ。」

下から見上げるようにして、彼にケーキの箱を差し出す。
想像通り、期待と疑念の入り交じった瞳が僕を見詰める。

「…それね、僕の実家の方が送ってきてくれたんだ。でも一人じゃこんな量食べきれないし、甘い物もそこまで食べれないからリンクに手伝ってもらおうと思って。」
「…本当?食べていいの?」
「うん、紅茶いれてくるから、食器とか準備して待っててくれないか?」
「うん!」

ニコリ。
花の様に可愛いらしい笑み。

あぁ、頑張って店まで行って予約してきた甲斐があったよ。
実家が送ってきたなんて嘘さ、君のためにとか言ったら、君は遠慮してしまうだろうからね。


コポコポコポコポ……


こ気味良い音と、甘い香りが辺りに満ちる。

外は快晴、風も気持ちいい。

「リンク、せっかくだしテラス出ようか?」
「そうだね、気持ち良さそうだし。」

人払いは完璧だし、邪魔者は退けたし、とひそかに胸中で付け加える。
そして準備が整い、白い箱を開ける。

「うわぁ……!」
「…凄いな……」

甘い匂いと共に出てきた物は、綺麗な飴細工によって彩られた幾つものケーキ。
ちらっと彼の方を見遣ると、歳相応の笑顔でケーキを食い入る様に見詰めていた。

「…さ、食べようか?」
「うんっ!いただきます!」

パンッと手を合わせ、ニコッと笑いかけるリンク。
その綺麗な指先がフォークを掴み、切り取った一片を口へと運ぶ。
途端に破顔する。

「〜〜美味しい!」
「喜んで貰えてうれしいよ。」

彼の笑顔に釣られるように笑いながら、自分も一口掬って食べてみる。
…成る程、これは美味い。

「ね、マルスマルス?」
「ん?なんだい?」

ケーキとリンクの笑顔を堪能していると、フォークを握りしめたまま彼が話しかけてくる。

「一口ちょーだい?」
「もちろんさ。」

甘えたように首を傾げる彼の口元に自分のケーキを一口運ぶ。
普段なら"あーん"なんてしたら殴られるのだが、この時ばかりは素直にケーキに飛び付く。

「うん、美味しい〜!マルスもいる?」
「喜んで!」
今日のリンクはとことん機嫌が良いらしい。
差し出されたフォークに乗せられた一口大のケーキの端。
これは、間接キスではないか。

「美味しい?」
「うん、ありがとう!」

ああ、夢のよう、新婚のよう。

彼を餌で釣った感は否めないがそれでもこれはうれしい。

目の前には、すでに二個目のケーキに手を付けている幸せそうな彼の姿。
そんな彼の姿に心を決める。

「…明日はシュークリームでも持ってくるよ。」
「本当!?」

わぁいと騒ぐリンク。
いつもの姿からは到底想像できない様子だが、これが本来の彼の姿なのだろうか。





それから大分時が経ち。


僕は、今日も甘い匂いを引き連れ彼の元へと向かう。


これは僕の、『日課』


ガチャリと食堂のドアを開ければ、そこには満面の笑みを湛えたリンクの姿が。

「待ってたよマルス!今日はオレが紅茶用意してみたから!」
「それはうれしい限りだね、僕も今日は趣向を変えてみたところさ!」

がさっ、と掲げる紙袋。
中には沢山の果物とチョコレートが入っている。

「チョコフォンデュだっ!!」
「当たり〜!さっ、じゃあ食べようか?」
「うん!」

にこやかにテラスへと駆けていくリンク。
ああ、毎度毎度苦労している甲斐がある。






初め、僕は君を釣っていると思っていた。

今は、どっちが釣っている方でどっちが釣られている方なんて分からないね。



だって、

こうして君とお茶をしている時にはもう………


(明日は、パフェにでもしようかな。)


次は何を貢ごうか、楽しみにしながら考えているんだもの。


明日も明後日も、
きっと変わる事はない日課。

僕は、昼下がり、
甘い匂いと浮ついた心と共に、
君の元へ向かうだろう……


君の笑顔のために。










〜後書き〜
なんか(まともな)マルリンで甘いような物を書こう、と思ったら別の意味で甘甘しい話しになってしまった…(苦笑

……なんか、マルスが普通の人ですよ!?多分初めて!(笑
リンクが幼い感じしますが甘い物のせいです。
えぇ、彼のツンデレの"デレ"部分は糖分によって覚醒するのです!!(何

えーと、あと余談ですが。
ケーキ店、『リラ』ネーミングセンス無い私はその場の勢いと気分で名前を決めます。
その時ちょうど読んでいた星座の本。

……はい。星の名前です★


えぇ、まぁ、はい。
ここまで読んで下さりありがとうございました!


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