小説

□drunkard
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プルルルル…………

リビングの電話が鳴った。
夕食の後片付けをしていた鷹士は、洗い物を止めると、濡れた手を拭いながらリビングに向かい受話器を取る。

「はい、桜川です」
『あ、夜分恐れ入ります。荻野と申しますが……鷹士さんですか?』

電話の相手は、ヒトミの高校時代からの親友、荻野梨恵だった。


* drunkard *


「ああ、梨恵ちゃんか。こんばんは。いつもヒトミがお世話になってます」

鷹士はチラリと時計に目をやった。時刻はまもなく20時半になる。
「ごめんな、ヒトミは今日、サークルの人たちと食事してくるとかで、まだ帰ってないんだけど……9時くらいには帰ると思……」
『あ、あの……それなんですけど……』
「え?」
電話の向こうの梨恵は少し躊躇ったように声を詰まれせたが、やがて申し訳なさそうに口を開く。

『あの……実は、今日……ヒトミ、私や優と一緒に合コンに来てて……』

「……へ?」

思いがけない言葉に、一瞬頭が真っ白になった。

『あの、すみません!私が同じゼミの子に誘われて……一人じゃちょっと不安だったんで、ヒトミ達に付き合って貰ったんです。』

鷹士の病的なまでのシスコンぶりをよく知っている梨恵は、慌ててヒトミを弁護する。
「い、いや……。だ、大学生だもんな……合コンくらい……」
そう言いつつも、声が上擦ってしまう。

『そ、それで、なんですけど』
「あ、ああ」
切迫した梨恵の声に我に返る。

『ヒトミ、お酒飲んじゃって……止めたんですけど、飲みすぎちゃって。今、かなり正体を失くしてるんです』

「ええっ!?」
一気に血の気が引いた。

『男の子の中には、あきらかにヒトミ狙いの子とか居るんで、ちょっと不味いと思って……。私と優が見てますけど、出来たら迎えに来ていただいた方が……』
「あ、ありがとう!すぐ行くから場所教えてもらえるかい?」

梨恵から店の場所を聞くと、鷹士は慌てて上着と車のキーを掴んで部屋を飛び出した。


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