小説

□treasure
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家の手伝いで実家に行った日曜日。

一休みをしてお茶を飲んでいた母とヒトミは、いつの間にか
『昔のヒトミのお仕事写真観賞会』
に興じていた。

「ほら、これなんか可愛いでしょう?」
「本当だー。……って、自分で言うのもなんだけど。あはは」


* treasure *


母子は笑いながら、沢山の写真に目を通す。

ふとヒトミは、以前から疑問に思っていた事を口にした。

「ねえ、私がちっちゃい頃モデルの仕事してた時さ。芸能界へのお誘いとかもあったって聞いたけど……」
「ああ、そうねえ。モデルクラブとか、芸能事務所とか色々あったわねえ……」
「お兄ちゃんには、そういう話、来なかったの?」

「え?鷹士?」

母は顔を上げた。
「うん、お兄ちゃんだって見た目良いし……子供の頃も可愛かったじゃない?私みたいに、モデルに……とか、芸能界に……とかなかったの?」

以前から、結構不思議だったのだ。
子供の時の写真を見ると、その頃から鷹士は顔も整っているし、スタイルも良い。
ヒトミがそう云う仕事をしていたのなら尚更、暇さえあればヒトミにべったりだった鷹士が、業界の人間の目に留まる事もあったはず。
でも、そんな話は今まで聞いた事が無い。なんでだろう?

「あったわよ。結構」

そんなヒトミの疑問を、母はあっさりと払拭した。

「あ、やっぱりそうなの?」
「ええ、あの頃鷹士は中学生だったかしら?モデルクラブとか、芸能事務所からも声を掛けられたわね」
「へ〜!へ〜〜〜!!」
感心すると共に、なんだか妙に誇らしい気持ちになる。

「で?やっぱり断っちゃったの?」
「ええ、『そんな事してたらヒトミの面倒が見られなくなる!』って。一考の余地も無かったわね」
母はクスクスと笑った。
「あはは……やっぱり」
予想通り過ぎて、笑うしかない。

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