小説2

□letter(レッテル)
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「でさ〜、レストランを出たところで元カノと見事に鉢合わせ! そうしたら女同士でとんだ罵倒合戦になっちゃって、もう煩いから『お前ら2人ともウンザリだ!』って帰っちゃったよ。その後メールとか電話とかジャンジャン来たけど、鬱陶しいから2人とも『連絡すんな!』って着信拒否。アハハハ」

誰も聞いていないモテ自慢を延々とし続ける男に愛想笑いだけ返してから、ヒトミは顔を逸らして小さな溜息を吐いた。


*letter(レッテル)*


今日は大学のゼミ仲間の飲み会。……のはずが、人が人を呼んで、何故か他の大学の人達まで参加している。

今隣に座っているこの男もそうだ。

彼は最初別の場所に座っていたのだが、開始1時間程経ち、ヒトミの隣に居た梨恵が席を外した隙に移動してきて、それからずっとそこに居座っている。

オシャレで如何にもモテそうだけど、それを鼻にかける様な態度も見受けられて、正直ヒトミには苦手なタイプだった。

(それに、お兄ちゃんの方がカッコいいし)

内心惚気るヒトミの気持ちなど露知らず、男はあからさまにヒトミに興味を示している。

「そんな訳で、俺今フリーなんだよね。彼女いない歴1週間とか。ハハハ」

そう言うと、急にヒトミの顔を覗き込んできた。思わず避ける様に顎を引く彼女の態度を気にも留めず、男はにっこりと愛想笑いを浮かべた。

「君と同じゼミの館野、俺と高校の同級生なんだけどさ、さっきあいつに聞いたんだけど君もフリーらしいじゃん? そんなに可愛いのにおかしくない?」

おかしくて悪かったですね。
そう言いたいところを堪えて、何とか引き攣った笑みを浮かべる。
その表情を勘違いしたのか、男はハッとした様に軽く手を叩いた。

「もしかして、過去に変な男と付き合ってトラウマになってるとか?」
「いえ、別に」
「じゃあ、男嫌い?」
「別に……」

もう放っておいて欲しい。
彼氏……と言うか、大好きな人はいるし、他の男になんて興味は無いんだから。
それをズバリ口に出せないのは辛いモノがあった。余り親しくない人ばかりの集まりならいいが、男の2つ隣には梨恵が居る。
彼女はヒトミが困っているのに気付いているようで、さっきからチラチラと心配そうにこちらを窺っていた。

「えー、だってモテるでしょ? 可愛いし、スタイルも抜群だしさー」
「そんな事ないですよ。だって私、高校時代は体重100キロありましたもん」
「え!? うそっ」

男だけじゃなく、周りに居た数人が驚いた様に目を瞠る。
そんな反応には慣れてるので、ヒトミはおどけた様に笑った。

「本当ですよ〜。ね、梨恵ちゃん」

男の肩越しに梨恵にウインクすると、彼女もうんうんと頷いた。

「ヒトミ、すっごい頑張って痩せたよね!」
「そうそう、半分以上減らしたもん。まあ、そんな訳で恋愛とか縁がなかったんですよ」

そう言って、ヒトミはあっけらかんと笑ったのだったが――

「そっか、可哀想に」

はい!?
予想外の台詞をポツリと呟かれて、慌てて隣を見やると、男は何とも言えない――憐れみの視線をヒトミに向けていた。

「分かるよ。太ってるからって馬鹿にされて苛められて、それで人を信じられなくなっちゃったんだろ? そりゃあ恋にも臆病になるよね」

もう一度、はい!?
馬鹿に……は、ちょっとされたかもしれないけど(おもに百合香に)、

「べ、別に苛められてませんよ?」

人間不信にもなっていない。
しかし、男は何もかも分かった様な顔をして首を振る。

「誰だって辛い思い出とかあるんだ。悔しかっただろうけど君だってもう昔の事なんて忘れなよ。その為に頑張って痩せたんだろう? 違う自分になる為に」



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