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□精一杯の想いを込めて
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……え……
「おめでとうございます!一等です!」
…は?
ちょ、ま、うっそ、マジでか!?
いやいや、冗談でしょ、うん、冗談だよ。
夢でしょ、これ夢なんでしょ。
目を覚ませ新八!
こんなことあるはずないんだ!
…頬つねってみようか。
いや、やっぱベタだし恥ずかしいな。
「僕?大丈夫?」
おじさんの声がぼんやりと聞こえる。
僕は弱々しく頷いて、そしてその瞬間胸の奥底から感情が溢れ出して
「や、やったァァァァ!!!!」
喉が張り裂けんばかりの大声で叫んだ。
そう、叫んでしまったのだ。
「で、一等の景品がマウンテンバイクだったってわけか」
どうでもよさそうな銀さんの声音にますます惨めになりながら、僕はこくんと頷いた。
姉上に貰った福引券で、どうせ当たらないだろうと思いつつやってみた福引。
するとなんと、奇跡的に一等が当たった。
ほんとに何気なく、ろくに景品表も見ずにやったもんだから、一等って聞いて前の神楽ちゃんの時みたいに旅行とかが当たったのかと思って、今思うとほんと恥ずかしいくらいはしゃいじゃって。
福引のおじさんもちょっと引き気味だったよな…。
マウンテンバイクって、まあ自転車好きな人とかだったら嬉しいだろうけど、別に僕マウンテンバイクなんて欲しくないし…。
それになんか、柄じゃないというか。
僕が袴姿で颯爽とマウンテンバイク乗りこなしてるとこなんか想像したくない。
滑稽でしょ、あまりにも。
「まあさ、今日お前誕生日だしさ、誕プレってことでさ、ちょうどいいじゃん」
「いや、どうせ乗らないのにもらってもしょうがないでしょ。邪魔なだけですよ」
「じゃあネトオクで売りさばくとか」
「んー…でも僕機械とか苦手だし」
「ばっかオメー、今時の若いモンが機械苦手とか言っててどーすんだよ」
「じゃあ銀さん僕のかわりにやってくださいよ」
「だって俺がやったって俺になんの利益もないじゃん。まあアレだよ、お前がもし利益の99%を俺に譲ってくれるって言うんだったら考えてもいいけどよォ」
「99%ってほとんど全部でしょ!」
「お前知らねーの?ネトオクってなぁ、アレすんげー体力使うんだぞ。例えるならアレだよ、水中を500m息止めて泳ぐくらいの体力使うんだよ」
「それ体力云々の問題じゃないだろーが!500m息止めるって死ぬじゃん!いくら体力あっても自然の摂理にはかなわねーよ!」
「例えだよ、例え。まあとりあえずそんくらい体力使うんだから利益の120%よこせよ」
「増えてるし!つーか120%って利益のそれ以上じゃん!ろくに給料よこさないくせに何言ってんだよ!」
僕がヒートアップしていると、ふいに今まで黙っていた神楽ちゃんが口をはさむ。
「何かの縁があって新八の元にやってきたマウンテンちゃんを売りさばくなんてヒドイアル!ううん、ヒドイなんてもんじゃないヨ、もうお前死ねヨ!」
「なんでだよ!お前の方がヒドイだろ!なんで誕生日にそんなこと言われなきゃなら…」
「ってか俺も機械苦手だけどね。修理は得意だけど」
いきなりぼそっと告白する銀さんに、僕は怒りを通り越して呆れてしまった。
そのまま力が抜けたようにソファに深く身体を沈める。
「はぁ…もう、誕生日だってのになんでこんなに心身ともに疲れなきゃならないんですか」
そこで僕ははたと思い出す。
「ところで、銀さんと神楽ちゃんからプレゼントとか…」
「あれ、神楽なんかいつもと違くね?もしかして、アレ?髪切った?」
「銀ちゃんこそなんか今日いつもと違うアル。なんか髪がサラサラしてるような気がするネ。あ、やっぱ気のせい」
「うん、無いんだね。まあ別に期待なんかしてなかったけどね」
僕は重苦しい吐息を吐きだした。
…誕生日なのになんでこんな惨めな思いばっかしてんの、僕。
まあ誕生日だからってその日一日全ての災厄をはじき返すバリアができるわけじゃないし。
ちょっとくらいはね、なんかあってもしょうがないよ。
朝寝坊するとか、悪い夢見るとか。
なんかそんなプチ不幸とかはね、起きてもしょうがないよ。
でも僕の場合いつもと変わらないじゃん、不幸ばっかじゃん。
「おめでとう」の一言ももらえてないよ、今日。
朝起きたらちょうど姉上が帰って来て、寝ぼけ眼で福引券渡してきて。
それから姉上は布団に直行。
福引では一等当たったけど大恥かいて。
万事屋ではまたこうやって暴言吐かれて。
「まあ、とりあえずもらえたんだから良かったじゃん、マウンテンバイク」
「どうせもらうんだったらまだティッシュの方がよかったです」
銀さんの慰めに僕は投げやりに返す。
するといきなり神楽ちゃんがソファの上に仁王立ちになってピンっと右手を挙げた。
怪訝そうな顔で見上げる僕らを見下ろしながら神楽ちゃんはいきなりの提案。
「これからみんなで散歩に行くアルヨ!」
「…は?」
重なる僕と銀さんの声。
だけど神楽ちゃんは顔色一つ変えずに続ける。
「銀ちゃんは原チャリ、新八はマウンテンバイク、私は定春に乗って、みんなで散歩に行くネ!新八の誕生祝いアル!」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
神楽ちゃんの厚意を踏みにじるようでちょっと気が引けるけど、僕は慌てて反論する。
「なんか僕だけスピード遅いじゃん。原チャリと定春と合わせて走るなんて無理だよ」
「新八が全力で漕げばいいアル」
僕の誕生日を祝おうっていう神楽ちゃんの気持ちは嬉しいんだけど、それはちょっと無理があるんじゃ…。
「神楽ァ、そりゃあさすがに無理ってもんだろ」
銀さんの声に、僕は安堵する。
でも、銀さんはやっぱり銀さんなわけで。
「あ、でも俺今ちょうどいちご牛乳切らしてんだった。あー、だめだな。やっぱ行かなきゃな。いちご牛乳なかったら俺死んじゃうもんな」
「じゃあ散歩がてらショッピングアル!」
勝手に話を進めていく二人。
ここで僕が反論したところで、聞きいれちゃくれないだろうってことはよくよく分かってる。
二対一でただでさえ不利だってのに、相手がこの二人じゃあ勝ち目はない。
結局最終的には実力行使にうつるんだもん。
僕は諦めた。
諦めるしかなかった。
僕は仕方なく立ち上がって襖に向かう。
するとふいに後ろからぼそりと
「新八、ヘルメット持って行けよ」
「はい?」
「あ?いつも被ってんだろーが。何?今日はノーヘルすんの?誕生日だからって浮かれてんじゃねーぞコノヤロー」
え、よく意味が分からない。
僕が訳が分からず突っ立っていると、銀さんはガシガシと頭をかいて
「マウンテンバイクは定春に乗っけていけ。平賀のジーさんのとこにでも持っていきゃあ買ってくれんだろ。分解したらカラクリの部品とかに使えるかもしれねーし」
「は、はぁ。え、じゃあ僕はどうやって」
「後ろ、乗ってけよ」
ぶっきらぼうな言い方だけど、その言葉は僕の胸にじんと響いて。
一緒に出かけるときはいつも言われてるのに、何故か今日はすごくその言葉が嬉しくて。
銀さんのさり気ない優しさが好きだ、と思う。
僕のために散歩に行こうと言い出してくれた、神楽ちゃんの真っ直ぐな優しさも好きだ、と思う。
「…はい」
僕が頷くと、銀さんは満足げに笑ってよっこらせ、と立ち上がる。
「よっしゃー、んじゃそうと決まったらさっさと行くぞ」
「ほいさ!」
ぴょこんっとソファから飛び降りる神楽ちゃん。
僕の横を通り過ぎるとき、銀さんは僕の頭を少々乱暴に撫でていく。
そのせいでくしゃくしゃになった僕の髪をさらにくしゃくしゃにするように神楽ちゃんの小さな手も僕の頭をわしゃわしゃと撫でていく。
それは、暗に『おめでとう』と言っているようで。
不器用な二人らしい、不器用な感情の表わし方。
すごくすごく嬉しくて、思わず二人をぎゅっとしたくなる。
でも不器用な僕は、そんな素直な感情の表わし方なんてできなくて。
照れてしまったのかすたすたと歩いていってしまう二人を追いかけて、お返しのように二人の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
『ありがとう』
僕なりにせいいっぱいの想いを込めて。
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もうほとんど突発的に書いてしまった新八はぴば小説。
マウンテンバイク活かせてないです。
どうでもいいじゃん、みたいな。
あぁぁ、もうちょっとちゃんと書きたかった!
大好きなのにな、新八…。
ごめんね新八、大好きだよ!
ではでは最後になりましたが、新八、誕生日おめでとう!