(plain)
□不器用だけど
1ページ/1ページ
まるで幼稚園のような、カラフルな輪っか。
大きなケーキ。
そして、大好きな笑顔。
「お誕生日おめでとう、神楽ちゃん」
定春の散歩から帰ってくると、見慣れた居間はすっかり様子が変わっていた。
そして、新八の祝いの言葉。
思わず頬に熱がこもり、神楽は俯いた。
「そんなとこ突っ立ってねえで、こっち来いや」
銀時に促されて素直に彼らの元へ歩み寄ると、よしよし、と銀時に頭を撫でられる。
いつもはなんやかんやと文句を言ったり茶化したりする銀時に優しくされて、ますます頬が熱くなった。
「神楽ちゃんが帰ってくるまでに準備するの、大変だったんだよ」
にこにこしながら言う新八は、たしかにちょっと疲れているように見える。
銀時は全然、そんな風に見えないのだけれど。
「銀さんは全然手伝ってくれなかったんだけどね」
神楽の胸の内を見透かしたかのように、新八が零す。
眼鏡の奥の目をすうっと細めて睨まれて、銀時はちょっとたじろいだ。
「んだよ、俺ケーキ作っただろーが」
「それは僕、ちゃんと手伝ったじゃないですか」
「おい神楽、あの真ん中のチョコレートあるだろ、あれの文字な、新八が書いたんだからな。俺じゃないからな」
言われて見てみれば、ケーキの真ん中に陣取ったチョコレートの文字はずいぶん歪んでいた。
『神楽ちゃん、お誕生日おめでとう』
『誕』の字なんか、ほとんど読めないくらいに潰れてしまっている。
でも。
「ちょ、銀さん、それは言わないでって言ったじゃないですか!」
「なんだよ、嘘つけっていうのかよ」
「違います!別にそこはふれなくても、ってことですよ」
「嬉しいアル」
「へ?」
二人同時に、間抜けな声。
きょとんとした顔で見つめられて、あんまりおかしいもんだから。
「いい字アルヨ!」
きゃたきゃたと笑い声をたてながら言ってやれば、新八は真っ赤になって口を尖らせ、銀時はにやりと意地悪く笑って新八を見やる。
『神楽ちゃん、お誕生日おめでとう』
こんなにあったかい字は初めてだ、と思った。
新八と銀時の誕生日の時には、自分がチョコレートの文字を書いてやろう。
不器用でも、きっと思いは伝わるから。
---------------------------
短いですが、神楽はぴば小説。
やっぱり神楽の誕生日は万事屋で祝うべきです。
きっと新八は不器用だろうな、なんて思いながら書きました。
銀さんは器用ですけどね。
でもその不器用さが、素朴であったかいんですよ。
神楽、本当にお誕生日おめでとう!