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□Christmas color
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町のあちこちでクリスマスソングが流れる12月。
そこここに満開の笑顔が咲き乱れている中、いつもと変わらず、肉まん片手に町を歩く4人組。
寒そうに背中を丸めて、ほかほか湯気の立つ肉まんを貪る様は、とても高校生には見えない。
しかし彼等は高校生である。
誰が何と言おうと、高校生である。
たとえクリスマスという言葉の響きに何の感動も示さなくったって、高校生なのである。
「おーい、誰だよ、このクソ寒ィ中出かけようなんて言った奴ァ」
「俺です」
「今すぐ死ね」
「何ですかィ、肉まん奢ってやったってのに」
「俺の財布から金出しといて何言ってんだテメー」
「まあまあトシ、この中で財布が豊かなのはお前だけだったんだ。しょうがねえよ」
「何がだよ。つーか俺だって所持金2000円だったんだぞ。豊かじゃねえよ、すっかすかだよ」
「十分じゃねーか!俺なんかなあ、30円だぞ!んまい棒3本しか買えねーよ!…あれ、3本も買えるじゃん」
「俺にいたってはたったの5200円でさァ。んまい棒が520本しか買えやせん。…あれ、520本も買えるじゃん」
「てめっ、やっぱ今すぐ死ね!んまい棒520本もあったら十分腹膨れるわ!ありすぎて飽きるわ!」
「大丈夫でさァ。んまい棒は色んな味あるんで」
「そういうこと言ってんじゃねーよ!」
ガミガミと言い争う3人の横で、もふもふと肉まんにかぶりつく山崎。
地味である故、たいてい騒ぎの中には巻き込まれない。
存在していることを忘れられているわけで、この上なく寂しいことなのではあるが。
こういうときには、己の影の薄さをちょっぴり得に思う山崎であった。
「それにしても、やっぱ12月はガキ共の笑顔が眩しいですね」
「まあな。クリスマスは子供にとって一大イベントだからなあ」
「下手すると、誕生日よりも楽しみにしてるかもしれやせんよ」
「そりゃねえだろ。誕生日の方が、もらえるプレゼント多いだろーがよ。親やらじいさんばあさんやら友達やら」
「やっぱ土方さんは欲深いお方ですね」
「んだとコラ」
「ガキ共が楽しみにしてるのは、プレゼントだけじゃありやせんよ。あのお方がやって来るじゃないですか、クリスマスには」
「サンタだろ!ああ、俺も中2までは信じてたんだけどなあ」
「え、近藤さん中2まで信じてたのかよ」
「いいだろー、別に」
「そうですよ、純粋でいいじゃないですか。どうせ土方さんはサンタなんか信じてなかったんでしょ。幼稚園の頃から『サンタなんかいるわけねーよ』なんて触れまわって、ガキ共の夢をぶち壊してたんでしょ。可愛げの無ェクソガキでさァ」
「悪かったな」
「でも、いいなあ子供は。純粋でさ、夢があってさ。世の中の汚ねえことなんか知らなくてさ」
「近藤さんは今でも十分純粋で夢がありやすよ」
「まあな。バカだよな。いい意味で」
「そうかあ?」
目的地も無く、他愛もない話をしながらただぶらぶらと町を歩くだけ。
クリスマス一色に染まる町の中、彼等だけはクリスマス色に染まらない。
話題こそクリスマスであるものの、クリスマスだからといって無邪気にはしゃぐわけでもない。
イルミネーションやクリスマスツリーの明るさに、目を細めるだけで。
「まあ、なんつーの?俺達ってさ、なんか青春とは無縁って感じだよな。クリスマスっつったら一大イベントじゃん。なんでこんなシケた面で歩いてんだよ、健全な高校生がさァ」
「たしかにそうですね」
「そもそもこのメンツで青春なんてありえねーよ」
「冷めた連中ですからね。特に土方さんが」
「俺はいつでもノリノリだよ」
「じゃあ、サンタの格好で泥鰌すくいやってくれって言ったらやってくれやすか?」
「やらねーよ」
「…ちっ」
「ん、今舌打ち聞こえたんだけど」
「空耳でさァ」
「あ、そうだ!クリスマスさあ、クリスマスパーティーやらねーか?」
「いいですねィ。土方さんはサンタの格好で参加ということで」
「じゃあ俺いかねー」
「ダメだぞトシ!これは委員長命令だ!」
「権力乱用するんじゃねー!」
「ふっふっふ、権力は使ってなんぼなんだよ!」
「委員長が何言ってんだッ!!」
「ねえねえ、新八君も誘いやしょう」
「おお、だったらチャイナさんも誘わなきゃな」
「えー」
「えーじゃない。チャイナさんだって友達だろ?」
「違いまさァ」
「即答かよ!」
「総悟とチャイナは天敵だからな。眼鏡取り合って」
「新八君と俺はマブダチでィ」
「あっちは迷惑がってるように見えるんだけど」
「嫌がられると、余計仲良くしたくなる。べたべたしたくなる」
「やっぱお前ドSだな」
「自覚はありまさァ」
クリスマスパーティーかぁ…。
山崎は小さく口元に笑みを乗せる。
いいな、楽しそうだな。
でもいまだに、自分には声がかからない。
勝手に進められていく話。
一人取り残されたようで、とてつもなく寂しい。
「山崎」
「は、はいっ!」
「クリスマスケーキ買っといてくれィ。全額負担で」
さらっと言い放つ沖田を見つめて数秒。
ようやく言葉の意味が呑み込めて、山崎はえっ!?と声を上げる。
「ぜ、全額負担ですか!?」
「でっかいやつ頼むぜィ。生クリームで、苺のってるやつな」
「…相当高くないですか?」
「いいだろィ、お前金持ってんだから」
思わず、コートのポケットを手で押さえる。
中の財布には、高校生にしては結構な額が入っていた。
それを見て、沖田はにやりと意地悪げに笑う。
「ま、頼まァ」
「頼んだぞ、山崎!」
「…俺、甘いの苦手なんだけど」
「じゃあ土方さんはマヨネーズでもすすってなせェ」
「いや、ケーキにマヨかけるわ」
「やるんだったら、俺達に見えないようにやってくだせェよ」
「いいや、見せつけてやらァ」
「じゃあトシ参加不可な」
「なんでだよ!?来いって言ったり来るなって言ったり!」
「ケーキにマヨはご法度だ。残念だったな」
「ちょ、待てって!わーった、わーったよ!普通にケーキ食うわ!」
「そんなにパーティーに参加したいんですか」
「仲間外れは胸糞悪ィからな」
「ってことで山崎、いい感じのケーキ頼んだぞ!俺達で飲みもんとか用意するからよ」
「…はい、分かりました」
クリスマス一色に染まる町を歩く高校生。
彼等もちょっとだけ、かなり異色ではあるけれども。
「よっしゃー、早くクリスマス来やがれー!」
高校生らしく、クリスマス色の青春っぽい道を歩み始めるのでありました。