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□春暁に集え
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「あれ…なんでお前等いんの?」
春の陽気の中、いちご牛乳とお菓子の買出しを済ませて戻って来ると、居間には見慣れた面々が。
そいつ等の顔は、極力見たくない顔ばかり。
運んでくるのは仕事でも幸せでも無く、厄介事ばかりと相場は決まっている。
そんな奴等が、ソファに我が物顔で腰かけて、そろってこちらを見てにこにこ(一人はにやにや)しているのだ。
全くもって、意味が分からない。
「銀時、いつまでそのようなアホ面を晒すつもりだ」
ヅラの一言で、はっと我に返る。
アホ面は余計だと言いたいが、きっと俺はそんな顔をしていただろうから黙っておく。
つーか、ツッこんだら奴は調子に乗ってガンガンボケだすから、めんどくさい。
「お前らさ、ここで何してんの?新八と神楽は?」
きょろりと周りを見回すと、定春もいないようだ。
「新八君とリーダーは、定春殿を連れて出かけて行った」
「追い出したんだろ。お前等が追い出したんだろ」
「うむ、そうとも言う」
「そうとしか言わねーよ」
「まあまあ、とりあえず金時座れ座れ!」
辰馬がやたらでかい声で言って、ヅラの隣を指差した。
右のソファには、辰馬と高杉が、そして左のソファには、ヅラが腰かけている。
何かの嫌がらせかとも思ったが、高杉の隣はなんか気まずいし、辰馬の隣はうるせえから、ヅラの隣が一番マシかもしれない。
つーか、誰の隣に座っても最悪だ、コレ。
こんなメンツの中で、俺はあの頃よく正気を保てたなと、過去の自分を褒めてやりたい。
「ほれ、座れ銀時」
すすっと手前にずれてヅラが急かす。
「いや、下がれや。なんでこっちにずれるんだよ。俺遠回りしなきゃいけねえじゃん。何?なめてんの?お前なめてんの?」
「なめてない」
真面目くさった顔で言い切るヅラ。
もう、ほんっと、こいつうぜえわ。
仕方なくわざわざ遠回りして、ヅラの左側に腰を下ろす。
俺の目の前には満面の笑みの辰馬。
うっわ、ちょ、こいつの目の前はマジ勘弁なんだけど!
ちらっと隣を窺うと、ヅラは晴れ晴れとした顔をしている。
「辰馬の前から逃げれたぞ!」みたいな顔をしている。
「違う。明日の朝ごはんはコロッケパンだ!という顔をしているのだ」
「いやもうめんどくせーからどうでもいいわ。でも一つ言っとくぞ。人の心を読むな。つーかいつの間に読心術なんか身につけたんだよ。攘夷活動しろよ、ダメテロリスト」
「そう、今日はその話をしに来たのだ、銀時!」
急にヅラが大声を出すもんだから、俺は思わず「わっ」と声を上げてしまった。
「何をびびっている、銀時」
「びびってねーよ。ワッフル食いてえなって言おうとしたんだよ」
「おー、ワッフルか!懐かしいのぉ。昔はしょっちゅう家で食べたもんじゃ!」
「黙れボンボン」
「ウイスキーボンボンも…」
「黙れボンボン」
ボンボンを黙らせてから、ヅラに向きなおる。
「で、何?攘夷活動なら俺はやんねーよ」
はっきり言ってやると、ヅラはきょとんとしてぱちぱちと目を瞬いた。
「攘夷?今日はそんな話をしに来ているのではない」
てっきり、攘夷の勧誘を始めると思っていた俺は面食らう。
攘夷を「そんな」で片付けやがったよ、明日は槍が降るんじゃねーか?
俺の驚いた顔を見て、ヅラはこほんと咳払いすると、
「今日は、そのうち皆で宴会をやるから、その打ち合わせに来たのだ」
………はい、意味分かりません。
「お前さっき『今日はその話をしに来たのだ』って言ったじゃん。俺宴会なんて一言も言ってねーんだけど。つーか宴会やるってもう決まってんの?いつの間にそんなこと決めたの?」
「俺と、高杉と、坂本のバカで先日決めたのだ」
「俺一人ハブ?ひどくね?」
「決める時はハブだったが、今は銀時も宴会やろうぜ委員会の立派な一員だ。話し合いに加わるがいい」
「いや、いいわ。そんな委員会こっちから願い下げ…」
「銀時君に、宴会やろうぜ委員会へ入って欲しい人〜」
「「「はーい」」」
ヅラがふざけた口調で尋ね、俺以外の三人が同時に手を挙げる。
尋ねたヅラ本人も挙手しているところが、小学生のイジメみたいですっげー腹立つ。
「つーかさ、なんで高杉もいんの?今度会ったらぶった斬るって言ったよね?え、それ覚悟で来てんの?」
怒りの矛先を高杉に向ける。
こいつ、さっきから煙管ふかすばっかで全然発言してなかったのに、「はーい」だけちゃっかり言いやがってマジ腹立つんだけど。
高杉はふーっと煙を吐き出すと、ぎらぎら光る獣の目でこちらを見た。
面白がるように歪んだ口元から、くっくっくと笑い声が漏れる。
「そのへんは、ご都合主義ってやつだ。気にするな、銀時」
「不本意だがな。攘夷四人というリクエストだからそれに沿わねばならんのだ」
「そうじゃ!晋助だけ仲間外れにするわけにはいかんぜよ!」
リクエストとか、そういう発言はやめてほしい。
「ということで、宴会について皆で話し合おうではないか。まず、場所だが…」
俺は反論を諦めて、居住まいを正した。
宴会やるってんなら、参加しない手はない。
たぶん、食事代やらなんやらは辰馬が出してくれるはずだから、タダ食いのチャンスだ。
メンバーには些か…ってかかなり不満があるが、タダ食いできるんなら我慢してやろう。
「銀時、万事屋は宴会場に使えるか?」
「使えねーよ、馬鹿言うな」
「む、何故だ」
「騒いだら、下のババアに殺される」
「かぶき町四天王のお登勢殿か…うむ、それは危険だな。坂本、貴様の船は?」
「わしの船も無理じゃ。陸奥に叱られるきに」
「あー…陸奥殿は怒ったら怖いからな…仕方無い。高杉、貴様の船はどうだ?」
「おいヅラ、こいつの船に乗ってる連中は、俺達のこと敵だと思ってんだぞ。そんなとこで宴会なんかできるわけねーだろ」
「ヅラじゃない桂だ。…そこもご都合主義で、というわけにはいかないのか」
「ご都合主義の乱用は、この世界の軸を揺らがせちまうからだめだ」
きっぱりと言い切ってやると、ヅラは難しい顔で腕を組んだ。
「料亭は…」
「無理だろ。テメーの立場をわきまえろ、ヅラリスト」
「ヅラリストじゃない、桂だ」
「屋形船はどうかの?」
「あー…いい意見だが、残念。テメー船酔いするだろ」
「吐いてもいいなら、わしはかまわんが…」
「いいわけねーだろ!常識考えろ毛玉!」
「ならば、うちのアジトはどうだ、銀時」
「真選組来そうだからやだ。四人そろってしょっぴかれんのはまっぴら御免だぜ」
「逃げればいい」
「宴会するんだろ?いつ真選組が来るか警戒しながら酒飲んだって、うまくねェよ」
いちいち意見にツッこみながら、俺は頭をフル回転させて、手頃な場所を探していた。
恒道館は、多分ゴリラがお妙のストーカーしてるから無理だ。
お妙の奴が、張り切って料理なんか作った日にゃ、俺達四人そろってあの世逝きだし。
……ひょっとすると、あそこなら。
「おい」
ここはどうだ、いや無理だ、と論争を繰り広げていた三人(高杉はほとんど喋っていないが)が、そろってこちらを見る。
俺はこほんと咳払いして、ちょいちょいと下を指差した。
「いっそのこと、下のババアんとこでやったらどうだ」
「お登勢殿の店で?」
「ああ。ババアは、あれで話の分かる奴だから、一晩くらいなら貸し切りにしてくれるかもしんねーし。上でどんちゃんやったら怒鳴られるが、下でやりゃあ一応客だし、文句もそう言わねェだろ」
「ふむ…なるほどな」
ヅラは乗り気な様子だ。
坂本は酒が飲めるならどこでもいいようだし、高杉にいたっては話し合いに参加すらしていない。
ヅラがよしと言えば、それは三人の総意と思っていいだろう。
ヅラは一つ頷くと、決まりだ、というように膝をぱしっと叩いた。
「銀時、お登勢殿に事情を話しておいてくれ。結果は、伝書鳩で俺達に伝えてくれればいい」
「あーもーボケんな、めんどいから。俺はヅラに普通に連絡すっから、あとはお前が辰馬と高杉に伝えてくれ」
「うむ、分かった…あ、ヅラじゃない桂だ」
わざわざ訂正するヅラに、いらっと眉を動かしながらも、俺はぱんぱんと手を叩いた。
「よーし、終わり!もうお前等帰れや」
立ち上がって、しっしっ、と追い払うように手を振る。
煙管を帯に挟んで高杉が立ちあがると、辰馬とヅラもそれに続く。
「見送ってくれ、銀時」
「彼女かテメーは。キモい、さっさと帰れ」
「彼女じゃない、桂だ」
お決まりのセリフを残してヅラが出ていくと、居間はすっかり静かになった。
しばらくそのまま突っ立って、ふと目にとまった買い物袋の中からいちご牛乳を取り出し、その温さに顔をしかめる。
水滴まみれの紙パックの口を開いて、ちびりと甘い液体をすすった。
宴会、か。
ゆっくりソファに腰掛けると、尻の下でかさっと乾いた音がした。
立ち上がって下を見ると、一枚の白い紙きれがあったので取り上げてみる。
そこには、嫌味なまでの達筆で、
『江戸の夜明けを共に見よう』
と書いてあり、隅っこに何やら暗号のようなものが書かれていた。
どうせ「桂小太郎」を暗号にして書いてあるのだろう。
いちいち細かいところにまでこだわる奴だ。
呆れとともに、紙きれをびりびりに引き裂く。
紙片をごみ箱に放り込んで、俺は居間を出た。
ババアに何て説明しようか、頭の中で考えながら。
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10000Hit御礼5本目。
内容の無い話ですみません(汗
攘夷四人というリクエストだったんですが、高杉さんほとんど発言してませんね…。
桂さんと銀さんがわいわい話してるだけみたいな…。
しかもご都合主義って!
すいません、ほんと、土下座します!
よし、次からはちゃんと真面目にやるぞ!
(2009.4.6 緋名子)