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□彩
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季節は冬。


この季節になると、道行く人の首元は様々な色に彩られて、冬のしんみりと寂しい風景に華をそえる。









『やっぱり、マフラーとか、ベタだけどいいですよね。手作りだと、なんか愛されてるなあって気がします』


テレビから流れる声に耳を傾けながら、僕は湯呑に口をつけた。


『冬にもらって嬉しいものはなんですか?』


つやつやした黒い髪を、耳の下あたりで二つに束ねたアナウンサーが、通りがかった人にそう質問を投げかけている。


返って来る答えは、やっぱり編み物に集中しているようだ。


しかし、次にテレビに映った人物を見て、僕は思わず漫画のようにお茶を噴き出した。


『お妙さんがくれる物なら何でも嬉しいです!あ、でも正直言うと、お妙さんが欲しい…なんちゃって!』


少女のように顔を赤らめてそう答えたのは、言うまでも無く近藤さん。


アナウンサーの困惑なんて気にもかけず、空気の読めない彼はへらへらと照れ笑いしている。


しかし次の瞬間、近藤さんは背後から何者かに強烈なキックを浴びせられて、カメラと熱烈なキスをした。


画面いっぱいに広がる近藤さんのドアップ。


さすがにちょっと引く。


『テメー、テレビで何個人名出しとんじゃァァァ!!すいません、名前のところ、ピーッって入れてください』


どさっと倒れこんだ近藤さんをげしげしと蹴りつけながら、笑顔でそう言ったのは姉上。


もう手遅れです、姉上…近藤さんも、もう手遅れになりそうです、姉上…。


し、CMお願いします!アナウンサーの悲鳴めいた声と同時に、画面がぱっと切り替わった。


さわやかな歯磨き粉のCMを観ながら、僕はずずっとお茶を啜る。


近藤さん、まがりなりにも真選組の局長なのに、あんなんテレビで流されて大丈夫かな…?


きっと屯所に帰ったら、土方さんにぶーぶー文句を言われるんだろう。


でも近藤さんは、「お妙さんと一緒にテレビに映ったぞ!」なんて、最高に嬉しそうな顔で言いそうだ。


姉上にしてみれば迷惑なことこの上ないけれど、近藤さんは嬉しくて仕方無いんだろうなぁ。


それだけ、姉上のこと好きなんだ、近藤さんは。


複雑な思いのままテレビを見つめていると、CMが終わって、またアナウンサーが映された。


きっちりと束ねられていた髪がちょっと乱れて、ものすごく疲れた顔をしている。


別に僕は悪くないんだけど、なんだか彼女に謝りたい衝動に駆られた。


『えー、やはり、冬のプレゼント=編み物、という意見が多いようです。中でもマフラーはダントツの人気ですね。今年も、マフラーを編む予定の女性は多いのではないでしょうか?』


マフラーねぇ…。


そういえば、銀さんのマフラーは定春との闘争でボロボロになってたな。


神楽ちゃんにいたっては、長谷川さんにあげた(あまりにも寒そうで可哀そうだったから、らしい)とかで、今は持っていなかったはずだ。


マフラー…マフラーか。


テレビの右上に映し出された時計を見ると、現在2時10分。


今から出かけても、夕食には間に合うだろう。


少ない荷物の中から財布を取り出して所持金を確認すると、毛糸玉2つくらいなら買えそうだったので安心する。


これからどんどん寒さは増す一方なのに、ボロボロのマフラーはきついだろう。


マフラー無しは、もっときついだろう。


二人の喜ぶ顔を想像して覚悟を決めると、僕は財布を手に万事屋を出た。










目の前に並ぶ、色とりどりの毛糸玉。


赤、黄色、青、ピンク、オレンジ、茶色、黒…まだまだ、名を挙げればキリがないくらい、様々な色が揃っている。


それに加えて、毛糸の種類も様々で、毛の長いのや短いの、太いのや細いの、ふわふわしたのや締まったの、もうわけが分からない。


とりあえず手当たり次第に触ってみて、ちょっと太めで手触りのいい毛糸玉に決めた。


あとは、色か。


銀さんは、やっぱり赤かな。


着物とか頭とか白いから、赤のマフラー巻いたらぱっと明るくなるはずだ。


神楽ちゃんは…長谷川さんにあげたやつはピンクだったな。


女の子らしい、優しいピンク。


長谷川さん、ちゃんと使ってくれているんだろうか…せっかく神楽ちゃんがあげたんだから使っててほしいけど、やっぱり使ってほしくない(正直、長谷川さんにピンクは微妙だと思う)…複雑だ。


またピンクにしようか。


いや、違う色の方が気分が変わっていいかな、でもやっぱり同じ色の方が喜ぶかな。


しばらく悩んだ後、ピンクと白の糸が交じった毛糸玉を選んでお金を払った。


編み針は、たしか姉上が持っていたはずだから貸してもらおう。


それで、ついでに編み方も教えてもらおう。


クリスマスまでには編み上げて、二人をびっくりさせるんだ。


バレないように編まなきゃな…どこに隠しておこうかな。


のんびりと道を歩きながら、高まる気分を持て余して、僕は買い物袋をゆらゆら振った。


すれ違う人の中には、すでにマフラーに顎をうずめている人もいる。


これからどんどん通りには色が溢れて、冬の物寂しい風景を鮮やかに彩るのだろう。


僕が編んだマフラーも、江戸を彩る一つの色になる。


考えたら、わくわくした。


銀さんと神楽ちゃん、喜んでくれるかな?喜んでくれるよね。


銀さんはちょっと照れながらも、小さな声で御礼を言ってくれるだろう。


神楽ちゃんも、銀さんに負けず劣らず照れ屋さんだから、「受け取ってやるヨ」なんて、精一杯不機嫌な顔をして、乱暴に僕の手からマフラーをひったくるだろう。


ここほつれてる、編み方が雑だ、なんていちゃもんつけるくせに、いざ身につける時が来れば、二人とも妙にそわそわして。


僕はそれに気づきつつも、見て見ぬフリをする。


「どうですか?」なんて聞くのはタブーだ。


素直じゃない彼等は、そんなことを言えばまたクレーマーになるに違いないから。


ほんのり口元を彩る淡い笑みが見られれば、それで僕は十分。









今年初めて雪が降ったら、みんなで散歩に行こう。


一面の銀世界の中、首をあっためるマフラーの尻尾をぱたぱたさせながら。


だから、それまでにマフラー編み上げないとね。


冬のグレーの空の下、吐いた息の白さに、どうしようもなく胸が高鳴った。








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10000Hit御礼小説6本目。

新八は、万事屋のおかんです。

おかんな新八が好き。

新八がみんなにマフラーを…なんて素敵なリクエストなんだ!

なのに、こんな拙い文しか書けないことが悲しい…あー、文才欲しいな!

何回でも言います、文才欲しいです。

もっと本読んで、いろいろ研究しなきゃですね。

がんばります。



(2009.4.9 緋名子)

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