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□炬燵と蜜柑
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「ふぁ〜、やっぱり冬は炬燵で蜜柑ですよね」


「俺は炬燵でチョコレートパフェが食べたい。寒いのにあったかい炬燵の中で冷たいパフェを食べるのがオツだと俺は思うんですけどどうですか」


「知りませんよ」


「銀ちゃん、私は炬燵の中で丸くなるのはまっぴら御免アル!私は庭を駆け回りたいんですけどどうですか!」


「知らねーよ」


冬。


ちらちらと細雪が舞う今日、僕達は炬燵に肩まで埋まって蜜柑を食べている。


「つーか炬燵で丸くなるの嫌って言ってるお前が一番場所取ってるからね。さっきから足当たってるんだけど。いてっ、ちょ、今蹴ったの誰だコラァ!」


「私じゃないアル。新八じゃね?」


「いいや、今の足は素足だったぞ。新八は靴下履いてんだろーが。蹴ったのお前だろ、正直に吐け」


「違うアル!私靴下履いてるヨ!」


「ちょ、神楽ちゃん靴下引っ張らないでよ!いたたっ、爪立てるなぁぁ!!」


毎年お決まりの、この争い。


炬燵の中で足を蹴り合っては、毎回毎回同じ展開。


口ではぎゃあぎゃあ言いながらも、実はみんな楽しんでるんだってことは顔を見れば分かる。


いくら眉間に皺寄せたって、口尖らせたって、暴言吐いたって、目は笑ってる。


「ちくしょー、こうなったら蜜柑の汁攻撃アル!おりゃっ!」


何が『こうなったら』なのか分からないけれど、神楽ちゃんはそう言って蜜柑を掴むと、銀さんの目の前でぐしゃっと握りつぶした。


当然、蜜柑の汁は銀さんの目どころか顔全体に飛び散るわけで。


銀さんだけじゃなく、神楽ちゃんの顔にも盛大に飛び散るわけで。


「ぐあぁぁぁぁ!!目がぁぁぁ!!何しやがんだてめぇぇぇ!!つーか鼻も痛いんだけど!!」


「ぐあぁぁぁぁ!!蜜柑コノヤロォォォ!!主人に牙を剥くとは、そんなに死にたいかぁぁぁ!!」


「いや、もう死んでるよね、間違いなく。かなり悲惨な最期を遂げたよね。つーか神楽ちゃん、せめて皮でやろうね。蜜柑もったいないでしょ。食べ物は粗末にしちゃだめだよ」


これも毎度のことなので、やんわりとツッコんでおく。騒動が起きるたびにこうして言い聞かせているんだけど、神楽ちゃんはいっこうに蜜柑の皮を使おうとしない。


「だって、蜜柑の皮じゃ殺傷力に欠けるアル!」だそうだ。


蜜柑に殺傷力を求めることがまずおかしいんだけども。蜜柑は食べるもの。兵器じゃない。


「あーちくしょ、顔ベタベタ。つーか痛くて目開けられねぇんだけど」


「洗ってくればいいんじゃないですか?」


「言われなくても洗ってくらぁ。ちょ、新八盲導犬になって。洗面台まで誘導して」


「嫌です。寒い」


「銀ちゃん、私も目開かないアル」


「自業自得だクソガキ。つーか新八、マジ頼むからさぁ、連れてってくれよ、洗面台」


「嫌です。寒い」


「銀ちゃーん、目が痛いアルー」


「だぁぁぁぁっ!!ったく新八は使えねぇし神楽は馬鹿だし!もういい、自力で洗面台まで辿り着いてやらぁ!なめんなよ!」


「はいはい、いってらっしゃい」


「銀ちゃーん、おんぶー」


「うるせぇ!くっつくな!離れろ!鬱陶しい!」


なんだかんだ言いながらも、結局銀さんは神楽ちゃんをおんぶして、あちこちに頭や足をぶつけながらも、なんとか洗面台に辿り着いて顔を洗って戻ってきた。


やっぱり、家主なだけある。


「っとによぉ、もうお前14だろ?いつまでも子供みてえなことしてんじゃねーよ。いい加減大人になれ、な?」


再び自分のポジションに落ち着いて蜜柑の皮を剥きながら、小さな子に言い聞かせるように銀さんが言った。


言われた神楽ちゃんは、机に顎を乗っけてしかめっ面だ。たまーに銀さんが親のように説教すると、きまって神楽ちゃんはこんな顔をする。


それは「父親面すんな」ってことなのか、それとも。


「あー、この蜜柑甘ぇ」


ぼんやりとそう言った銀さんにむかって、同時に差し出される二つの掌。


「あ?何よ」


「ひとつください」


「私も」


銀さんは「えー」と渋りながらも、僕と神楽ちゃんの掌に蜜柑を乗せてくれた。


薄い皮は、ところどころに亀裂が走って鮮やかな橙色が顔を出している。これはほんとに甘そうだ。


口に入れて噛みしめると、口の中に広がる甘酸っぱいお馴染みの味。


「あ、ほんとだ。おいしい」


思わずそう呟くと、「だろ?」と銀さんは得意げに笑った。








毎年毎年、同じにすぎる冬の日々


なんてことない、何が起きるわけでもなく、ただ安穏と過ぎる日々


事件といえば、小さくて低レベルな争いと、家賃の取り立てと…血生臭さとは無縁の、後々笑い話になるような、そんな事たち


なんの変哲もなければ意外性もない、ただゆるゆると過ぎる毎日


でも、そんな毎日こそが幸せなのだと


またこうしてみんなで炬燵を囲めることが、幸せなのだと


小さな幸せを噛みしめながら、来年もまたみんなで蜜柑を食べたいと願う、そんな冬の日










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10000Hit御礼小説8本目。

なかなか進まなくて苦労しました(汗

動きがないですからね、ほとんど。

ただゆるーい感じで進んでおります。

こういうのを極めたいなぁ…眠くなっちゃうくらいほのぼのした、あったかいお話が書けるようになりたいです。

タイトルは、ほんっと思いつかなかった。

お題サイト運営してる方とかほんと尊敬する。



(2009.4.20 緋名子)

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