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□5月5日
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五月五日、土方さんの誕生日。今日は朝っぱらから大騒ぎだった。


沖田隊長が、祝砲と称して副長室をバズーカで爆破。寝込みを襲われたということで、当然土方さんは負傷。誕生日にまで仕事なんかしなくていいとの局長の粋な計らいにより、書類が部屋に無かったのは不幸中の幸いか。


沖田隊長は悪びれる様子も無く「土方さんの誕生日ということで、どうしようもなくハイになっちまいやした。まあ、若気の至りなんで勘弁してくだせェ」と無責任な言い訳をして逃走。沖田隊長のことが可愛くて仕方無い局長は、仕方ないなあ、と苦笑して俺に土方さんの怪我の手当を言い付けた。


そこでなんで俺なのか理解できないけど、まあ一応薬の知識なんかはそれなりにあるから渋々請け負って、今に至る。


「だからいいっつってんだろーが。ちょ、やめっ、触んな痛ェな!」


「局長に手当するように言われたんですよ。任務は遂行しなきゃいけませんから。おとなしくしてください」


さっきからこの繰り返し。


土方さんはいいっつってんだろ、の一点張り。俺はおとなしくしてください、の一点張り。お互い一歩も引き下がらないもんだから、一向に決着のつく気配が無い。この不毛なやり取りにいい加減うんざりしてきた。


「大体あんた、いつも舐めときゃ治るだのほっときゃ治るだの言ってますけどね、菌なめちゃいけませんよ。下手すりゃ死にますよ、マジで」


「うるせー男の治療だ」


「ただの荒療治ですよ」


びしっと言ってやれば、土方さんはぐう、と唸って黙り込む。その隙にピンセットで消毒液の染み込んだ綿を傷口に押し付けると、呻き声を上げて俺の手からピンセットを払った。


はあ、と思わず溜息が漏れる。


「いい加減にしてくださいよ、土方さん。あんた、ただでさえ煙草やらマヨネーズの過剰摂取やらで体に悪いこと三昧なんですから、怪我の治療くらいちゃんとしてくださいよ。あんただけの体じゃないんですからね、大事にしてください」


ほんとにその通りだと思う。あんた真選組の副長だろ。あんたがいなきゃ真選組は成り立たないんだよ。あんたじゃなきゃ真選組の副長は務まらないんだよ。


土方さんも分かりきってることだと思うけどさ。


「ほら、手出してください」


心持ち口調を和らげて促すと、土方さんは舌打ちして乱暴に腕を差し出した。思わず口元が綻ぶ。


何笑ってんだコラ、とメンチを切られたので慌てて口元を引き締めた。ちょん、と綿で傷口を撫でるとびくっと土方さんの体が強張る。爆破されたということで、かなり傷は深い。そうとうしみるだろう。


「ってか、なんでそんな手当嫌がるんですか」


ふと思いついて聞いてみると、土方さんは仏頂面で


「そりゃおめー、気持ち悪ィだろーがよ。野郎に怪我の手当されていい気がするわけ無ェだろ」


「…なんだ、そんなことですか」


そう言って苦笑すると、すごい目で睨まれた。鬼の副長の名に恥じないほどの形相に思わず謝罪の言葉を口走る。やっぱおっかないな、この人。


「まあ、女中さんもいませんし、しょうがないでしょ。なんなら雇えばいいじゃないですか、女中さん」


「んなことしたら野郎共が浮かれちまって仕事になんねーよ」


「やっぱそうですかね」


「そうにきまってんだろーが」


右腕の消毒が終わり、次は左腕。こっちも相当やられてる。傷の多さに軽く目眩をおぼえつつ、作業に取り掛かった。


それから黙々と作業を続け、傷口を包帯やガーゼで覆い、ようやく手当が完了した。


ふう、と額に浮かんだ汗を拭って救急箱を閉じる。土方さんはあちこち清潔な白で覆われて、なんだか痛ましいというか滑稽というか。


そんな俺の視線に気づいたのか、土方さんはせっせと隊服を着込んでしまった。


「箇所が多いので大変かもしれませんけど、ちゃんと手当はしてくださいよ。悪化したら治り悪くなりますからね」


「分かってる」


「男の治療は禁止ですよ」


「うるせーな、分かったからさっさと出てけ」


しっしっ、と手で追い払われて、俺は救急箱を手に部屋を出た。しかしふと思い出して閉じかけた襖を開く。


なんだよ、というように見上げた土方さんに向かって、一言。


「土方さん、お誕生日おめでとうございます」


土方さんは虚をつかれたように目を見開いて。でもそんな表情は一瞬で、たちまち不機嫌そうに眉を寄せる。


「気持ち悪ィ。腹切れ」


「ちょ、ひどっ!人がせっかく…」


「うるせー死にてェのか」


あまりに冷たく鋭い声に、言い返す気力をそがれて俺は襖を閉めた。


でも、一瞬。


襖が完全に閉まる寸前に。


その口元に浮かんだ笑みはきっと気のせいなんかじゃない。


ちちち、と小鳥が囀り、さあっと吹いたそよ風が髪を巻き上げる。


その風の中に微かだが、しっかりとした緑の香りを見つけ、改めて五月の訪れを感じた。











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最後までもうなんかね、手こずらされました。

ここまで思うように話が進まなかったのは初めてな気がします。

ほんっとに、何度書きなおしたことだろう…。

土方さんごめんよ、こんな稚拙な文しか書けなくてごめんよぉぉぉ!!

ほんとに申し訳ない、土下座ものです。

今ちょっと書きたい話あるので、そこで挽回したいです。


土方さん、ほんとにお誕生日おめでとう!



(2009.5.5 緋名子)

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