(short)
□chain
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帰り道も、沖田さんと一緒だった。もう、目出し帽は被っていない。銃も持っていない。ノーマルな沖田さんと、暗くなり始めた道を歩きながら、俺は気になっていたことを聞いてみた。
「沖田さん」
「ん?」
「なんで、公園で嘘ついたんですか?」
「嘘?」
「目出し帽は、目立たないように被ってた、とかいうアレですよ」
「ああ」
沖田さんは、気まずげに視線を彷徨わせてから、頭を掻いた。渋々といった様子で、口を開く。
「なんつーかさ、こうやってみんなで集まって、クリスマス遊べんの、多分最後だろうなあ、って思ったわけよ。今日、ふと、突然。家、出ようとした瞬間に」
「ああ、もう、高校卒業ですもんね、俺達」
「だろ。そしたらさ、みんなバラバラになるじゃん。それぞれ、新しい友達もできるだろうし、恋人もできるかもしれねえし。当然、クリスマスも、そいつらと過ごすだろ。来年も今の仲間でクリスマスとか、絶対ありえねえじゃんか。そう考えたら、今年のクリスマスは、なんか特別なことしたいなあ、って思ってな」
「……来年のクリスマスに、対抗意識燃やしてたんですか?」
「……まあ、そんな感じ」
そう言う沖田さんは、照れ臭そうだった。笑いを堪える俺を横目で睨み、肘鉄を食らわせてくる。だってそりゃ、笑うって。意外に沖田さんって、子供っぽいところあるよなあ。
「クリスマス=高三のクリスマス。っていう方程式が成り立つくらいにしたかった。そしたら、みんな今の仲間のこと忘れねえだろ。クリスマスが来るたびに、思い出すだろ。そういうのってなんか、いいじゃん」
「一生の友達、みたいな」
「今の仲間がそうなればな、とは、ちょっとだけ、思ってる」
「土方さんも?」
「あいつは別に仲間じゃねえし」
「そうですか」
たしかに、今の仲間でクリスマスを祝うのは、今年が最後だったのかもしれない。みんなこれからそれぞれ新しい環境で、新しい仲間を作って、生活していく。で、今の友人達は、過去のものになるのか。といったら、そうはならない可能性も、あるっちゃあ、ある。ただ、今までの友人達は、すでに俺の中では過去のものになっているけれど。また遊ぼうぜ、って言って別れて、それっきり。今の友人達だって、そうなる可能性は、大いにある。というか、そうなる可能性の方が、はるかに大きい。今までだって、そうだったのだから。
でも、今日の沖田さんの目出し帽姿は、たしかにインパクトが強かった。クリスマスが来るたびに思い出すかもしれない。映画やドラマで目出し帽の犯人を見るたびに、思い出すかもしれない。そこで、連絡をとってみようと思うかどうかは、その時にならないと、分からないけど。
でも、そうやって、細々とでも、俺達の関係が続いていくのかと思ったら、それは結構、愉快なことだ。喧嘩ばかりでも、一緒に三年間過ごしてきた仲間だから。卒業して、それっきりってのは、やっぱりなんか、寂しいし。
来年の俺は、誰とクリスマスを過ごすんだろう。どんな環境にいるんだろう。今日のことを、思い出すだろうか。そんな余裕が、あるだろうか。それを考えると、不安になるから。
「沖田さん、お守り代わりに目出し帽姿、写メらせてください」
「お守り?」
ま、いいぜ、と、快く了承してくれた。道の真ん中で、目出し帽を被り、ピースサインを作る沖田さんを、ぱしゃり。携帯の画面を覗き込み、それ送ってくれよ、とはしゃぐ沖田さんとのんびり歩きながら、今年最後の面白写真を、仲間達に送りつけるために、メールの作成画面を開いた。
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元旦に、なぜかクリスマスのお話をアップです。
自分の計画性の無さにうんざりです。
しかも内容がカオスですね。
目出し帽って。何じゃそら。
でも、この意味不明な感じが好きだったりします。
だいぶ私の気持ちも入ってます。
今の仲間と音信不通になるときのこと考えたら、すっごく寂しいです。
何らかの繋がりは、持ってたいなあ。
毎年年賀状出すくらいでもいいから。
(2011.1.1 緋名子)