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□常時爪先立ち
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『真選組、またやった!!』


新聞の一面をどかんと飾った記事。写真では沖田君がいつもの無表情(でもなんか得意げに見えるのは気のせいだろうか)でピースしている。やっぱこいつの仕業かい。今頃この記事見て、あのゴリラとニコチン野郎は青ざめていることだろう。ご愁傷様。


「銀ちゃん、胸糞悪いからそのページびりびりに破ってもいい?」


ひょこっと脇から顔を出した神楽が伸ばした手を、気だるげにぺしっとはたいてやった。


「だめだっつの。新八まだ来てねーだろ?あいつ新聞とってねえんだよ。万事屋で見るっつって。今破ったら今日の朝飯抜きだぜ」


「今日の当番銀ちゃんアル」


「今うちの冷蔵庫は見事なまでにすっからかんだ。新八が食材買って来てくれるから、新八が来なきゃ飯作れねーの」


「じゃあ新八が来たらご飯食べれるアル」


「そうそう。だから新八の機嫌損ねるようなことしちゃだめだぞ。食材が俺達の手中に入ってから思う存分引き裂け、いいな?」


「分かったアル!」


大きく頷きながらの返事は花丸ものだ。でも新聞の中でピースする沖田君を見る目は鋭い。神楽が変な気を起こさないうちに、さっさと畳んで(写真の面を下にしてから)机の上に置いた。


「お腹減ったアル。新八遅いネ」


ぐるるるる、と鳴り始めた腹を押さえて神楽が唸る。たしかに遅い。


ソファを立って窓から身を乗り出し、外を見渡してみるも新八の姿は無い。まさかあいつ、俺達を飢え死にさせるつもりか?給料もらえねーからっていっちょまえにストライキですか。ダメガネのくせに調子乗りやがって。つーか罪の無い神楽まで巻き込んでんじゃねーよ。ダメガネの上に悪魔かい。


まあ、給料渡さない俺が一番悪いんだけどね。


…!そうか、あいつは俺が生み出してしまった悲しいモンスターなんだ。すまねえ新八、一生「ダメガネ悪魔」の肩書きを背負って生きて行ってくれ。もう俺達はだめだ、死ぬわ。


「おはようございまーす」


…あ、来た。


「新八ぃぃぃ、お前どこほっつき歩いてたアルかぁぁぁ!!」


がらっと引き戸が開いた瞬間、新八にとびかかる神楽。うわっ、と新八の声。続いて悲鳴。重なる神楽の怒声とどかっ、ばきっという鈍い音。


新八が持っている買い物袋に被害が及びそうで怖いが、今あの二人の間に割って入る勇気は無いので放っておく。もし食材が滅茶苦茶になったら、新八にもう一回買いに行かせよう。もちろん自腹で。


「ちょ、神楽ちゃんやめてぇぇ!!卵割れるから!卵かけご飯食べれなくなるよ!?」


その一声で食欲魔人神楽の動きがぴたりと止まった。振り上げた拳は振り下ろされることなく、すとんと体の脇に垂れる。命拾いした新八は、吹っ飛んだ眼鏡を拾い上げてかけ直すと、よっこらせ、と立ちあがった。


「いたたっ…あ、遅れてすいません。ちょっと途中で邪魔が入りまして」


おう、と気の無い返事を返してやれば、もう一度すいません、と謝ってから新八は台所に消えた。怪我の手当しなくていいのか、と思ったけど、案外平気そうだから大丈夫なんだろう。


ぼっこぼこにした神楽を責めないところ、たぶん遅れたことを反省してるんだろうが、邪魔者のせいで遅れたっつってんだからちょっとくらい文句言ってもいいと思う。やっぱそのへん、新八は甘い。


でもやっぱりむかつくわ。


「神楽、グッジョブ」


びしっと親指を立ててやると、神楽もにやりと笑って親指を立てた。


すると、あ、と声がして再び新八が居間に顔を出したので慌てて親指を隠す。新八は一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに真顔に戻って「そういえば」と口を開いた。


「沖田さんが、朝ごはん終わったら公園に来てって言ってましたよ」


「沖田君が?だってよ、神楽」


「いや、神楽ちゃんじゃなくて」


「……は?」


思わず目が点になる。沖田君が俺に用?いや、ナイナイナイ。


「神楽じゃねーの?」


「はい」


「俺?」


「はい」


「ほんとに俺?」


「はい」


「ほんとにほんとに俺?命賭けれる?」


「しつこいです。銀さんだって言ってるでしょ」


うっそ、マジで俺かよ。


え、何、何の用?沖田君から呼び出しって、もうなんか嫌な予感MAXなんですけど!


「やべ、熱出たかも。なんかおでこむっちゃ熱ィ。なあ新八、触ってみ。マジこれありえねーから。沸点超えてんじゃね?」


「学校行きたくない子供みたいなこと言わないでください。これからご飯作りますから、食べ終わったらすぐ出れるように準備しといてくださいね」


いやぁぁぁぁぁ!!!!


悲鳴は声になることなく胸の中ではじけ、がっくりと項垂れた俺の頭を神楽が慰めるように撫でてくれた。俺今なら泣ける気がする。


あったかい湯気が立ち上る白いご飯と味噌汁。付け合わせに沢庵。机の上に並んだこれだけのものを一時間かけて食べようと頑張ったけれど、新八に早く食べないと全部さげると脅されたので、急いでかき込んだ。


しょうがねえ、こうなりゃ俺も男だ、腹くくって沖田君に会いに行こうじゃねーか。


出かける前に、今生の別れになるかもしんねーな、としんみり言うと、馬鹿なこと言ってんじゃねーよ、と新八と神楽に白い目で見られた。


……もうなんか、どうでもいいや。
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