(all season)

□結局皆、花より団子です。
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むせかえるような春の匂い。


春風に揺れるタンポポ。


花びらを散らす桜の木。


思い描く春は、こんなにもあたたかで優しい。


ぜひともこの春の情景の登場人物になりたかったが、過ぎてしまった春は戻ってこなくて。



結局皆、花より団子です。



砂の舞う人気の無い公園に、彼等は集まっていた。


カラフルなレジャーシートの上にちぢこまって座り、ぼんやりと桜の大木を見上げている。


もしその木が艶やかな桜色の花びらを纏っていれば、彼等の目がこんなに曇ることもなかっただろう。


しかし季節は初夏。


桜の花びらが残っているはずが無かった。


かわりに鮮やかな緑の葉が顔を出している桜の木を、彼等は呆けたような顔で見つめるばかりであった。


「いやぁ…なんつーか…アレですね」


空気を変えようと、新八が明るい声を出すが皆反応を示さない。


新八は困ったように眉尻を下げて、かりかりとうなじを掻いた。


「いいじゃないですか、この青々とした葉も。夏が来るって感じでわくわくするでしょ」


「いやぁ…やっぱね、きれいな桜を知っている分、なんかね…」


「あんたでしょ、花見しようって言ったの」


どうしてくれるんですかこの空気、と新八が口を尖らせる。


一応来たからには、盛り上がりたい。


勉強会を切り上げてまで、やって来たんだから。


しかしこの場はこの上なく白けていた。


あれだけ乗り気だった近藤も、すっかり飽きてしまってブランコに座っている。


いかつい顔をした近藤がブランコを漕いでいる様は、あまりにも奇妙で、正直ちょっとイタい。


しかし本人は周りの目を気にすることなく、ゆうらゆうらとブランコを漕ぎながら懐かしさに目を細めていた。


「腹減ったなぁ」


ぽつりと声を上げて、土方がごそごそとスーパーの袋を漁り始める。


「おい誰だよカップラーメンなんか買った奴。湯が無きゃ食えねえだろうがよ」


「委員長でさァ」


「二個あるんだけど」


「どっちも委員長のでさァ」


「嘘だろ。委員長塩ラーメン嫌いじゃねーか」


「ああ、それは俺んです。たこ焼きだけじゃ足りないかなあ、と思いまして」


「結局お前のもあるんじゃねーかよ!!」


「細かいこといちいち気にしてたらキリがありやせんよ、土方さん。もっとアバウトに生きなきゃ」


「お前はアバウトすぎんだよ、馬鹿!」


言い争いながらも自分のめあての物を見つけると、土方は薄く口元に笑みを湛えてそれを取り出す。


それは言うまでも無く…。


「うわ、マヨ方さんそれよそで食べてくださいよ」


マヨネーズと、カツ重。


マヨネーズの用途が痛いほど分かっている新八は、顔をこわばらせてそう口にする。


マヨ方、という己の呼び名にむっとしながらも、ツッコむ気力も無いのか無言でその場を離れていく土方を見て、近藤がブランコを降りてこちらに駆けて来た。


「なんだ、飯か?」


もう昼過ぎてるもんなあ、と嬉しそうな近藤に沖田はカップラーメンを手渡す。


さんきゅ、と礼を言って数秒。


あれ、と声を上げて、近藤は照れ笑い。


「おいおい、俺としたことが馬鹿やっちまったよ。カップラーメンは湯が無きゃ食えないよなぁ」


「そうですぜ。ということで近藤さんはご飯無しです」


「だよなぁ…って、えぇぇぇぇ!!??」


ノリツッコミではない。


マジである。


己に突きつけられた恐ろしい現実に、近藤の顔が蒼ざめる。


それを見て、神楽が近藤の手に焼きそばパンを渡してやった。


途端に近藤は顔を輝かせる。


「チャ、チャイナさん、いいの?」


「いいアル。一つ減ったって、たいして変わりは無いネ」


「だよね。桁が違うもんね」


うんざりしたような表情で、新八が神楽の脇に陣取るパンの山を眺めた。


あげないアルヨ、と山の上に覆いかぶさる神楽を冷たい目で見やってから、新八は大きな溜息をつく。


こんなの花見じゃないだろう。


いや、そもそも見る花が無い。


あるのはみずみずしい青を湛えた桜の木。


でもこれはこれで、なんか命の力強さを感じる…ような気がする。


とにかく、ここへは桜を見に来たのだ。


葉が生い茂っていたって、この木は桜なのだ。


ならいいじゃないか、見ようよ。


なんでいきなり昼食タイム?


まだここ来て15分も経ってないよ?


飽きるの早すぎない?


言えたらいいだろうと思う。


しかし、新八には言えなかった。


っていうか、言いたくなかった。


なんだかんだ言ったって、やっぱり葉桜は葉桜なのだ。


緑の葉が生い茂っているのでは、そこらの名も知らない木と同じである。


普通の木を見ながら何か感じろと言われたって、新八には無理な話であった。


やっぱり花見は花を見るからこそ花見なのであって、故に今自分達が開催しているこの催しは花見では無い。


そう勝手にこじつけて、新八は冷たいおにぎりにかじりついた。


ふわっと緑が香る。


はらりと落ちてきた葉を手ではらってから、木陰を作る大木を見上げた。


春には皆からもてはやされる桜。


花が散ってしまえば、もう見上げて感嘆の声を上げる者はいなくなる。


己の足元で人間達が楽しそうに騒ぎ、己を見上げては「きれいだなあ…」と呟く。


そんな春を過ごした桜にとって、今の季節はなんとも寂しいものだろう。


そう思うとなんだか切なくて。


さっきは失礼なこと考えてすいませんでした、と心中で詫びた。


「ねえねえ、みんなちゃんと桜も見なよ?今日は桜見に来たんだからね」


声をかけるが、みんなご飯と雑談に夢中でこっちを見もしない。


腹がたつが、己だってさっき彼等と同じ立場だったのだ。


今だって、おにぎりをかじるのはやめていない。


ただ、今は桜の方を見ていようと思った。


皆が見なくったって、僕が見るよ。


だから寂しがらないでね。


自信を持ってね。


緑を纏った君だって、きれいなんだから。


さわさわと風に揺れる葉を眺めながら、ちょっとあったかい気持ちに浸る午後。


かじったおにぎりの塩気が、妙に口に心地よかった。









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お花見後編。

もっとぎゃあぎゃあやりたかったんですけど、きっと彼等テンション低いだろうなぁ…と思って。

やっぱり満開の桜を知っている分、葉桜を見た時の落胆といいますか。

葉桜だってことは分かってて来てるんですけど、やっぱりそのギャップにちょっと唖然というか。

おいおい、なんか普通の木じゃん、ってなことになるんじゃないかなぁ…なんて考えてたらこんな感じになりました。

すいません、説明下手で(汗

ボキャブラリー少ないです(沈

今回は新八メインっぽいですね。

ってかたいてい新八目立ちます。

彼は動かしやすい。

土方さんは難しいですね(汗

土方さんもっと目立たせたいです。

次回からちょっとずつ夏へ入っていく予定です!

夏はイベント多いので、今から書くの楽しみです!

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