彼の者の名は、忘却の糸使い

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「……」

リゼットは一瞬、ムッとした顔をすると一言。

「私……寝る」

バッタリと俯せに倒れてしまった。

「え?リ…リゼット?!本当に寝たんですか?!」

少女の顔を覗き込むが、気持ち良さそうに寝息をたてて起きる気配はない。

「……信じられません」

ライゼルークは頭を抱えた。

「…はあ。引きずっていきますからね」

そういうなり、首が絞まらない様にリゼットの服を掴むと、また歩き出した。


──本当に引きずって。


「……軽い子供ですね」

そういう台詞を吐く見た目少年は、実は結構大人らしい。




いくらも歩みを進めないうちに、果てしなく続く大地の向こうに何かが見えてきた。

遠くからでも異様に大きな建物だとわかるそれが、二人の目的地であり、仕事場である。


名を、協会という。


魔法を使う者達が集う組織だ。





「リゼット─、着きましたよ─」

棒読みで、観音開きの扉を開けたライゼルーク。

「……ん─……」

協会のにおいだか雰囲気に気付いたのか、リゼットが唸った。薄く目を開き協会である事を確認すると、次にライゼルークを見つめる。

「ライゼ」

小さいがはっきりした声に黒服の少年は、リゼットの服を離した。

「着きましたよ。仕方ないから報告行きましょう」

不満そうに彼は言う。

仕事から帰ったら、まず先にこれをしなければならない。

仕方ない、というのは些か気になるが。

「んー…眠いから寝てくる。報告一人で行って来て」

リゼットは目を擦りながら立上がり、服をはたく。

フード一杯になった砂を、あろう事か協会の床にばらまく。
 
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