彼の者の名は、忘却の糸使い
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「絶っ対嫌です!!」
ライゼルークのけたたましい声により、静寂は打ち破られた。
「アリスと組むなんて絶対変か面倒な任務の時じゃないですか!!」
そんな言葉聞き流すように執務をこなす水色の髪を持つ女──その相方を選ばせた張本人──は言った。
「そこまで拒否しなくてもいいじゃないの。我が主が可哀想だわ」
扉が開かれ入って来たのは、茶色の緩い三つ編み髪をした少年。
歳はライゼルーク──の見た目──と同じくらいか。
「シムに呼び出されて、ドア開けたらいきなり全力で拒否られるとは思わなかった…。俺、ちょっと泣いていい?」
うぅ…と泣き真似をしてみる少年だが、どこか本気で泣いているように見える。
「だってアリスは疫病神なんです!いっつもろくでも無いことが起きる」
そんな彼を余所目にライゼルークは容赦も遠慮も無く言い放つ。
「うっわー……マジきつくない?俺の硝子の心は打ち砕け…」
「拒否権は与え……てもいいわよ?リゼットを起こしにいけるのなら」
シムと呼ばれた女性は、凛とした声でさらりと選択権を与える。
「………アリスで我慢します。ってか選択権なんてないじゃないですか」
リゼットを“起こす”という単語を聞いた途端、ライゼルークの顔から血の気が引いたような気がした。
「リゼットをね……」
隣りにいる三つ編みの少年、アリスも顔を引きつらせる。
アリス、などと呼ばれているが彼であり、本名はレイディアエアリス。
その愛称がアリスである。
「じゃあ、我が主で我慢しなさい」
「さっきからさ、じゃあ仕方ない、とか我慢するよ、みたいな感じで聞こえるんだけど……俺って一体?」
「疫病神」「我が主」
アリスの悲しき問いに、二人は同時に違うことを真顔で言う。
「……もういい」
彼は憂いの笑みを浮かべた。
「一応相棒だとは思ってますよ」
友として言っているのか嫌味なのか、全くわからない台詞を吐くライゼルーク。
それを彼は前者の意味として意味で解釈した。
そうでもしなければ自分が可哀想過ぎる。
「……ありがと…」
但し、本気で喜んではいけない。
ライゼルークの性格上なら後者である可能性が高いからだ。
「では、話も纏まったことなので行って来て頂戴」
「え、待って。俺何すんだか知らないよ」
「俺も知りませんよ。ただ、いつもと同じだと思いますけどね」
目を丸くするアリスとは対称に、平然とした態度を取るライゼルーク。
「あら、いつもと同じなんて人聞きの悪い」
凛とした女性は、美しい笑みを湛えた。