彼の者の名は、忘却の糸使い

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「よっしゃあ! 行くぜぇ!」

アリスは気合い十分、喜々として全速力で駆け出した。

「あ、主……危ないから気をつけ……」

「うわっ!!」

イドルが注意しようとしたが、一歩早くアリスの叫び声が洞窟内に響いた。

元気良く走り出し始めたのはいいのだが、何も考えていなかったらしい。

数歩もいかぬうちに氷の床に足を滑らせ、頭と足を反転させるようにして思い切り転んだ。

「……ぅ゛っ……」

鈍器で殴ったような音と、声にならない声。

後頭部を思い切り打ち付けたようだ。

床に倒れたまま頭を抱え、バタバタと悶絶している。

「主ー……。危ないから気をつけて下さいと言おうとしたんですよぉ…」

アリスを見下ろし、眉を八の字にさせたイドルが言った。

膝に手を置き、心配そうに覗き込む。

ライゼルークもその隣りで、一緒にアリスを見下ろす。

「見下ろす」というより「見下す」と言う方が正しいだろうか。

そして、何かを言おうとおもむろに口を開いた。

「……」

だが音にはせず、息だけを吐き出した。



──盛大な溜め息として。

そして目を閉じ、親指と人差し指で目頭を押さえた。

「ぅあだーー! うーーう"ーー…!」

仲間が哀れもうが、軽蔑したまなざしを向けようが、今はそれどころではない。

痛い、痛い。なによりも、痛覚が最優先なのだ。

「主ー、大丈夫ですかー?」

「大丈夫じゃないー…いーだーいー…頭割れるぅぅ…」

悲痛に叫びながら、イドルが差し出した手を掴む。

頭を擦りながら上半身を起こした。

その目には、涙を溜めている。

「一度割ってみた方がいいんじゃないですか。この世の為に」


 
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