彼の者の名は、忘却の糸使い

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「さっきから黙って聞いてりゃソレとかアレとかってさぁ。終いには破壊? ちょっと酷いんじゃない?」

人形アリスは言う。

「……流石に怒っちゃうなぁ、俺」

貼り付けた笑みを崩さずに、目を細めた。

「お前の相手は俺だ。悪いけど、壊すからな」

アリスは人形と対峙する。

空色の瞳が、自分と寸分違わぬ物体を、しっかりと見据える。

「壊す……? ……はっ! そう簡単に出来ると思ってんのかよっ!」

豹変する人形。見下し、低く唸るような声をアリスに浴びせた。

もう、笑みとは言えない程に歪んだ笑みは、苛立ちを露わにしている。

「壊れるのはテメェのほうだ!」

言い終わるとほぼ同時に、人形の前方に魔法陣が展開された。

「!」

先程と同じ水で出来た触手が現れ、アリスへ向かって伸びる。

「ヴェルヴィール」

その言葉と共に、アリスの前方にも魔法陣が展開された。

「突き刺されっ!」

そこから不揃いながらも鋭利な氷が無数に出現し、触手に突っ込んでいく。

氷は全て触手に飲まれたが、内から真っ二つに切り裂いて進み、あっと言う間に人形の元まで辿り着いた。

「なっ……!」

速度を緩める事なくそれらの氷は、驚愕の表情を浮かべる人形の体を次々に貫く。

「……なーんてね。残念でした」

貫かれた筈の人形はニッと笑った。バチャンという水音と共に弾け、液体となって地に落ちた。

「クソッ!」

アリスが顔を歪め、声を荒げる。

その間に、水溜まりになった液体は地面を凄まじい速度で這い、アリスに向かって行った。

「……のやろっ!」

アリスは人差し指を立て、振り下ろす。宙に展開された魔法陣から地面へ向けて、氷柱が出現した。

「食らえ!」

氷柱は雨の如く。地面に突き刺さるように降り注いだ。

だが、液体はスルスルと蛇行して躱し、ひとつとして当たりもせずにアリスの足下まで移動する。
 
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