色々な世界

□魔王様の誕生日
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「お誕生日おめでとうございます、鏡夜様。」

「あぁ。ありがとう。だが山田。」

「はい?」

「何故お前が一番に言いに来ないんだ?」








〜魔王様の誕生日〜








11月22日 00:02


恐ろしいほどにこやかな笑顔でソファに腰掛けるは鳳鏡夜。
かの有名な鳳グループの三男である。



「ええっと…。」



一方、扉の前で冷や汗を流している女性は#NAME1##。
彼女はこの家の使用人…

ではない。


「私が一番じゃないんですか?だってまだ2分過ぎただけ…」

「一番は環だ。0時ぴったりに電話してきたぞ。」


携帯電話をこちらに見せつけるようにポケットから取り出す。


「知らねぇよ!!」


と言ってやりたいが口が裂けても言えないので心の中で叫ぶしかない。

彼女のポジションは鳳鏡夜の言いなり…いや手下、あるいは奴隷…まぁそんなところである。


「では、聞かせてもらおうか。」

「何をでしょう?」

「何をって…」


鏡夜はソファにもたれていた体勢をゆっくりと起こし


「俺の誕生日を0時ちょうどに祝えなかった理由だよ。」


にっこりと山田に頬笑みかけた。

山田の背筋を凍らせるのには十分すぎるほどの笑顔で。


「い、いえでも…直接祝いに来たのは私が一番なわけですし…。」

「俺は確か数日前、"一番に祝え"と言ったはずだが?」


そう。確かに数日前、
「俺の誕生日を一番に祝え。もし電話やメールですませようとしたら…まぁ、そんなことはしないよな?」
なんて有無を言わぬ笑顔で無茶苦茶自分勝手な注文を言い渡された。

だからこうやってわざわざ遠い鳳邸までやってきたのではないか。


「た、環様が…

「誰が下の名前で呼べと?」

「すいません!」


何故今私は怒られたのだろう。
疑問に思いながらも、冷たい目線を向けられているため言い訳を続けるしかない。


「須王様が、まさか0時ちょうどに電話をかけてくるような乙女な一面を持っていると思わなかったので。」

「お前が0時ちょうどに来れば問題なかっただろう?」

「そんな、来ただけでも感謝してほしいくらいですよ。」

「何か言ったかな?」

「いえ、何も!!;;」

「…まぁいい。」


ふっと息をつき、下ろした目線を再び山田に向ける。


「いつまでそこに立っているつもりだ?」

「え?」


そう、先ほどから山田は入口の扉前に突っ立ったままなのである。


「座らないのか?」


横に座るよう言っているのか、
鏡夜は自分の横を一度軽く叩いた。


「ええ。そろそろ帰ったほうが良いかと思いまして。」

「まだ構わない。」

「いえ、私が困るんです。」


山田は自分の腕時計に目を落とす。
そろそろここを出なくては。


「帰るのが遅くなりますので。」

「なんだ、そんな心配をしていたのか。」


鏡夜が呆れたように溜息をつく。


「そんなとは何ですか。」


山田にとっては一大事である。

なんせ明日は実家から両親がくるのだ。
しかも朝から。
彼らを迎え撃つには体力がいるため睡眠時間を削りたくないのである。


「遅くなるようなら泊まっていけばいい。」


鏡夜のコーヒーをすする音だけが部屋に響く。


「…はい?」


聞き間違いだと思い、いや聞き間違いだと信じてもう一度聞く。


「だから泊まっていけと言ってるんだ。」


平然とした顔で言い放っているが、言葉の威力は計り知れない。

鳳鏡夜と一晩過ごす?
考えただけで恐ろしい。
というか考えたくもない。


「いえ、今から帰れば十分睡眠時間が取れますから大丈夫です。」


鏡夜に背を向けて避難準備をすると
後ろから追いかけてくる声。


「もう帰るのか?」

「はい。」

「そうか…。」


残念だな、と呟くわりには
どこか楽しそうだ。


「山田にとっては、俺より睡眠時間のほうが大切なんだな。」


寒気がして振り向くと、鏡夜も山田のほうを向いている。

その顔に浮かぶどす黒い笑顔は物を言わせぬ迫力である。

それを見た山田は


「そんなことはございません、鏡夜様。」


と答える勇気しかなかった。
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