色々な世界

□鬼ごっこ
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「おや花子。遅かったな。」




空港。

もう聞くことはないだろうと思っていた声が耳に届き、

パスポート片手に私は唖然とした。




「な、んで…。」




逃げてきたはずなのに、その男は壁に身体を預けてコチラを見ているではないか。



「お前の考えそうなことならすぐにわかるさ。」



体勢を戻し、ゆったりとした歩みで近づいてくる鳳鏡夜に私は身構えた。




「なんだ、もういいのか?」

「へ?」




予想もしていなかった言葉に
私は間抜けな声を出してしまった。



「俺から逃げたいんだろう?」



そして、どうぞお逃げくださいと言わんばかりに
身体を後ろに引き道をあける。


…どういうつもり?


私は彼と開けられた道を交互に見る。



「どうした?逃げる勇気もないか。」



余裕の笑みを浮かべつつ、上から私を見下してくる。



「…バカにしないでください。」



そんな挑発に私が乗るとでも?

私はお嬢様なのだ。
ここで逃げ出すなんて
ウチの恥であり、お嬢様失格だ。

誰が鳳鏡夜の思惑に乗るもんか。




「ではお言葉に甘えて。」




彼の横をするりと抜け、
私は出口目指して走った。

お嬢様とか家柄とか関係ない。


今は自分の安全が第一だ。










「だからなんで…!?」



家にこもっていれば入ってこれまいと
部屋に戻ると

ソファに座るは鳳鏡夜。



「お邪魔してるよ。」



使用人が出したのであろうコーヒーを口にしながら
勝手に取り出して眺めているアルバムを奪い取って睨みつける。



「どうやって入ったの。」


「そこの扉からだが。」


「そういうことを聞いてるんじゃない!」



私が聞きたいのは入ってきた"場所"ではない。
入ってきた"方法"だ。

私の考えが通じたのか、あぁと納得したように話しだす。




「そんなの花子のご両親にお願いしたからに決まってるじゃないか。」




私を笑顔で見上げるその姿に憎しみが増幅する。

そんな爽やかに答えなくていいから。
というかなんで勝手に会ってるの。


まぁ相手はあの鳳グループのご子息。
名前を聞いたら大抵の人間は喜んで扉を開けるだろう。


人に取り入るのがホントに上手い人。




「ご両親へのご挨拶は当然のことだよ。」


「挨拶していただくほどの関係ではございませんので。」




何が当然なのかさっぱりわからない。

ただのクラスメートに挨拶してもらう必要性はゼロに等しいのではないか…。




「"今"はそんな関係ではなくても"将来"はわからんだろう?」




ソファからすっと立ちあがる姿に寒気がした。



鳳鏡夜に捕まったら…私はどうなるんだろう。

そう思うと、私の足は自然と部屋の外へと逃げ出していた。
 







その後も行く所行く所

そこには鳳鏡夜が先回り。

逃げ道がなくなってきた。



「さぁ、どこまで逃げるのかな?」

「ひぃぃ…!」




たとえ火の中、水の中。

地獄の底までついてくる。


…彼なら本当にやってしまいそうで恐ろしい。


逃げなければならないとわかっていても

もう足は動かなくなってきていた。
 
 
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