□黒い蕾
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「良守、また傷つくってきたんだって?」
「頭領」

何処で聞いたのか、わざわざ人気のない部屋を探して手当てをしていたのに。
襖から覗いた顔に良守は苦笑した。

正守は良守の背中に走る傷と、今まさに手当てをしようとしている式神を見比べて顔をしかめた。

「救護班の所に行けば良いだろう」
「あそこ、忙しそうなんですよ。俺は家から軟膏持って来てるから多少は大丈夫です」

苦笑して言うが、正守はまだ納得仕切れないような表情だった。
おもむろに背後に回ると、式神を手で払い後ろから手を伸ばす。

「軟膏。まだ塗ってないんだろ」
「大丈夫ですって」
「いいから」

有無を言わさぬ口調に、渋々と軟膏の瓶を渡す。
動く気配がして、触れる手の感触に小さく身体が震えた。

「身体、冷たいな」
「外にいましたから」

言葉を交わす間も、手は確認するように背中を伝う。
背骨から骨を伝って肩甲骨に。

「ここ、痛いか?」

声と共に触れられた場所にビクリと肩が跳ねる。
そこは受けた中では一番大きな傷で、切り口は赤紫に腫れてやや化膿していた。
ピリピリした痛さはあるが、我慢出来ない訳ではないので大丈夫だと答える。

「痛かったら言えよ」

そう前置きをしてから、正守はその傷に軟膏を塗っていく。
労るような優しい仕種に、肩に入れた力を抜く。
しかし次の瞬間、指とは全く違う感触に身体が震えた。

「ちょ、頭領!?」

見を引こうとするが、腕を強く捕まれた。
舌のざらりとした感触が首筋を伝い、耳の裏まで行くと耳たぶをしゃぶられる。

「ッ……、とうりょ…………」

悪戯に立てられる歯が快感を引き出していく。
舌が耳の穴に差し入れられ、響く水音が脳を溶かす。

「ぅ、ぁ………っ……………」

背中だけを意識していたら、腕を抑える反対側の手が前に回り、着物の上から自身を握り込んだ。
制止しようと手を伸ばすが、それより先に強く上下に擦られ、強い快感に手にしがみついて声を抑えるしか出来ない。

「ゃ、め………ん、………ぅ」

耳を弄っていた舌は襟足に戻り、丹念にそこに舌を這わせては噛み跡を残す。
それにさえ快感が走り、気付けば催促するように手に腰を押し当てていた。

「と……りょ………、…………ッ!!」

頭が真っ白になって、快感が一気に弾ける。

「は、……………、は、……」

浅く息を繰り返し、ぐったりともたれ掛かれば、背中から強く抱きしめられた。
どうしたのかと振り仰げば、正守は首の付け根に顔を埋めている。

「…………あまり、自分を虐めるな……」

苦しげに洩れた声と、抱く手は微かに震えていた。
それに気付き、良守は自らの手をそっと重ねる。

「けど……………、俺には、これしか出来ませんから」

否とは聞きたくないだろう。
分かっていても、良守は出来ないと口にする。

「力がない分…、身体を張らないと……、」

存在を、ここにいる意味を証明出来ない。
それは良守が何より恐れることだった。

正守の手は今だ強く締め付ける。
それを解いて、正面から泣き出しそうな顔を両手で包み込んだ。

「だから、取らないで下さいね」

−戦う術を、存在する意味を。

口付けに混ぜた真意を正守は知っている。
だからこそ、これ以上は言わない。
言えない。

「お前は、狡い」

口付けを受けながら、正守は言う。

「それじゃあ、何の為に俺がいるんだ」

洩れた言葉に、良守は正守を見た。
正守は真っ直ぐにこちらを見つめている。
こんなにも自分に心囚われている正守が、嬉しくて愛しくて仕方ない。

「俺、正守がいない世界じゃ生きられないよ」

切り替えた口調に、正守の瞳が一種揺れる。
それに優しく笑みを浮かべる。

「これは、本当。今も、それに昔だって、正守がいなきゃ、とっくの昔に命なんか捨ててた」

惨めさや、重圧で。
正守がくれたのだ。
生きる意味も、居場所も。

「正守だって、同じだろ?」

『俺がいなきゃ、生きていけない』

今の自分は、きっと酷く醜い顔をしているだろう。
正守もまた悲痛そうに顔を歪ませている。
そんな顔をさせたい訳じゃないのに。
額に優しく口付けて胸に頭を抱いた。
腰には強く腕が回される。

「お前が死んだら、俺も死ぬ」
「……うん」
「だから………、死ぬな」

くぐもった、涙混じりの言葉。
それを慰める為にキスを降らす。

「俺は、正守に生きてて欲しい。だから、死なないよ」

告げた言葉は、一体どれほど真実味を帯びて聞こえただろう。

『お前が死んだら、俺も死ぬ』

その言葉に一瞬浮かんだ甘美な誘惑に、良守は気付かない振りをする。

これは、気付いてはいけない誘惑。
禁断の果実と一緒。

だから、それにきつく蓋をした。



黒い花の蕾は、胸の内で微かに膨らんでいた。



END.









****************

なんだか二人で心中フラグ立ちまくりですが、正直本編とはあまり関係ないです(笑)
黒いシリーズの二人は依存度がハンパなく高い。
お互い信じ合って強い正良も好きですが、たまにはこんな二人も美味しい(*´∀`*)

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