短編(翡限)

□ひめやかなる
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「あ、あの……」

深夜を軽く過ぎた時間。
真夜中の珍客に翡葉は驚きながらも声のした方を振り向いた。

「どうした?」

振り向けば、襖の隙間から僅かに顔を覗かせている志々尾がいて。その顔は暗い中でも分かる程に赤く染まっていた。しかも瞳には僅かに涙が溜まっていて、そのことに疑問を抱きながらも翡葉は部屋へと招き入れる。
志々尾は翡葉が起きていたことに明らかにほっとした表情を見せて部屋へと入る。

「あの…。今晩、一緒に寝て欲しいんです」
「…………は?」

こいつは突然何を言うのかと、翡葉は思わず耳を疑った。驚愕に目を見張る翡葉に志々尾は言いにくそうに言葉を続ける。

「その…、隣の部屋の人が…、その…」

つっかえながらも紡がれた言葉に違うのかと胸を撫で下ろす。けれど残念だと思っている心も確かにあって、そんな自分に内心苦笑しながら翡葉は志々尾を見つめる。

「ハッキリ言えよ」
「あ、DVDを観てて…。それで…」

何を観ているのかなど、言わずとも真っ赤に染まった顔を見れば大方予想がついた。
志々尾のいる部屋の辺りは人数が多く壁が薄い。いくら音量を小さくしたとしても耳の良い志々尾には聞こえてしまうのだろう。そんなこと思って、ふと悪戯心が頭をもたげた。

「お前の方は、辛くねェのか?」
「え?」
「下」

言われている意味が分からずに志々尾は首を傾げるが、次の瞬間何のことか思い当たったのか顔を更に真っ赤に染めた。

「お、俺は、別にっ」
「来いよ」

慌てて否定するのを遮り手招きする。
それでも志々尾は恥ずかしさから動こうとしない。

「来い」

有無を言わせぬ口調で呼べば、やっとのことでゆっくりとこちらに近付いた。
目の前まであと少しという所で、翡葉は思い切り強く志々尾の腕を引っ張った。
突然のことにバランスを崩した志々尾を慣れた手つきで反転し自分の膝の上に座らせる。

「ひ、翡葉さんっ…」

非難とも言えない口調で肩越しに振り返りながら志々尾が名を呼ぶ。
何をするのかと不安そうに見上げる志々尾は上目使いで、可愛いと思うのと同時につい虐めたい衝動に駆られる。

「正直に言えよ。感じたんじゃねェのか?」
「んっ」

耳元で囁かれ志々尾は上擦った声を漏らす。

「ほら…。もう勃ってる」
「そんなことっ………あっ!」

ズボンの上から中心を撫でてれば、その躯は大きく震えた。しっかりと主張しているそれに気を良くして、小さな耳に唇を優しく押し当てる。

「……可愛いな」
「っ!!」

瞬間、言葉もなく志々尾が達した。
荒い息をして体重を預ける小さな躯を抱きしめる。

「続き、して良いか?」

訪ねれば、恥ずかしさに顔を真っ赤に染めながらも志々尾は小さく頷いた。









「……ぁ……ぁあっ」

座る翡葉に跨がる形で向き合う志々尾の中に容赦なく自身を突き立てる。
いつもより深く侵入してくる感覚に志々尾は首をのけ反らせた。

「奥、まで……っ」

恍惚とした表情は普段なら誰も想像出来ないだろう。
頭領さえ知らない自分だけの表情だと思うと堪らなく独占欲を満たした。

「動くぞ」
「あっ……あ、んっ」

絡み付く粘膜を振り切るように中を掻き交ぜれば、肉のぶつかる音と淫らな水音が部屋に満ちた。

「翡葉さんっ……」

快感に堪えるように首に腕を廻して抱き着く志々尾は洩れる声を気にして唇を強く引き結んでいる。
翡葉は腰に添えていた片手を離すと志々尾の頭を掴み、乱暴にその口を塞いだ。

「んっ!んんっ…」

一瞬苦しそうに抗おうとしたのを力で無理矢理抑える。唇を差し入れれば抵抗はすぐに納まり代わりに小さな舌が恐る恐る絡み付いてきた。

「ふっ、ん、んむっ」

途切れ途切れの間に小さな嬌声が零れ落ちる。何時しか進んで自分を求める姿は快感を更に増幅させ、下肢を熱くさせた。

「ぁ、ひば、さっ」

限界を訴えて縋り付く志々尾の力が増した。それを感じた瞬間、翡葉は一際激しく中を貫いた。

「あぁ……イけ」
「ーーっ!!!」

最後に上がった悲鳴さえも、飲み込むようにその唇に強く口付けた。
















「翡葉さんは、要らなかったんですか?」

情事の後、同じ布団に潜りながら内緒話のように志々尾が小さく訪ねた。
何のことか分からずに眉を寄せれば、志々尾は居心地が悪そうに小さくなる。

「その…、DVD……」

その言葉にまだ気にしていたのかと呆れる。

「そんなの随分前から見てねェよ」
「え?」

確かに昔は興味や性欲処理として観ていた時期もあったが、元からそんなに盛っていた訳でもなかった。
何よりも、志々尾を好きになってそういうのに全く関心を示さなくなったのも事実だ。

「今は、お前が要るしな」

きょとんとこちらを見つめる志々尾にニヤリと笑えば、志々尾はその言葉の意味に気付き顔を真っ赤に染めた。

「お、俺はっ」
「お前も必要無くなって一石二鳥だろ」
「翡葉さんっ」

むきになる志々尾に愉快気に笑う。

小さな小さなヒソヒソ声は、それからしばらく小さな部屋に楽し気に満ちていた。


END.





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初の翡限・裏っ!!
夜行内じゃ人の目とか気にしちゃいますが烏森のあのアパートならヤリたい放題ですよねぇ(*´▽`*)
それもその内書きたいな(笑)

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