Long Way

□夏だ!海だ!トレーニングだ!(最終章)
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「赤也ごめんね〜一緒にやってもらう羽目になって」

「別にいいけど」



跡部に頼まれたのは、倉庫としているところから新しいボールを20個ほどとってくるお仕事だった。
量的には一人でもいけそうなものだが、跡部が星夜もといったのは、優姫一人では迷うからだろう。


しゅぽんと新品ボールの入った缶を開け、二人がかりでボールをカゴのなかに放り込んでいく。



「ボールってこんなのに入ってるんだね〜なんかもっと、雑にビニール袋とかに50個くらいばーっと入った奴が売ってんのかと」

「……」



切原は思った。
先ほど一大告白をしてみたというのに優姫はいつも通りな気がする。


昼ご飯の時などは少し慌てたそぶりを見せていた気がしなくもないが、今は正真正銘いつも通りだ。
自分は本当に意識されてないのだろうか。


切原が不貞腐れながら優姫を見ていると、優姫がその視線に気づいた。




「赤也どした?」

「…いや別に」

「なんか拗ねた顔してるよ」

「だとしたらアンタのせいだし」

「へ?」

「なんでもねぇ」




鈍感な彼女にこれだけで察しろというのは無謀である。
切原はゴミとなる空の缶をまとめてゴミ袋に詰めた。



「こっちのが軽いからアンタこれ持てよ。俺そのカゴ持っていく」

「お、ありがとう」



ボールの入ったかごを優姫が切原に手渡す。
二人はゴミ置き場に寄って缶を捨ててから、コートにボールを持っていこうと話し合って歩き出した。



他愛のない会話をしながら二人が歩いていく。
ゴミを捨て終わり、コートへと向かっていた時、不意に優姫が改まった様子になった。



「あのさ、赤也」

「何?」

「優姫ね、考えたんだけど」

「何を?」



切原が横を向けば、優姫が珍しく言いよどんで、立ち止まっている。
切原もそれに倣って立ち止まると、優姫は心を決めたように切り出した。



「あのね!優姫はね!“好き”って感情がよくわかんないというか。友情と恋愛の境目が分かんないっていうのかな」

「!」



予想以上に真剣な内容なのを感じ取り、切原がとまどいつつもちゃんと聞こうとする。
優姫は言葉を整理しながら言葉をつづけた。



「その、優姫は赤也と学校違うし学年も違うし、だからまだ赤也のことちょこっとしか知らない気がしてるし。
でもでも赤也と一緒にいるのは楽しいし、おしゃべりしてても楽しいなって思うのさ」

「う、うん」

「で、その、午前中に赤也にその、ああいうこと言われて、今もぶっちゃけちょっとそわそわしてて」



ずっと切原の目を見てしゃべっていた優姫がその瞬間だけ伏し目がちになる。

少しは意識されてたということがわかり、切原の気持ちは昂った。



「でも、でもね!考えすぎて今を楽しめないのはちょっと違うと思ってて!」



優姫はなによりも今を楽しむのが好きだし、大事にしたいんだと主張する彼女の目は澄んでいて、それが嘘偽りないことを示す。



「赤也とは学校違うから、そうそう会えなくなっちゃうし。考えがまとまらないからって赤也のこと避けたくないし。
赤也とはその楽しく過ごしたいしっていうか、あ、これはみんなともなんだけど」



えっと、えっと、と優姫が言葉を探している。
切原は彼女の言葉を待っていたが、しかし数秒後、彼女の真剣な表情はもろくも崩れ去った。



「あ、あ〜〜〜結論わかんなくなっちゃった〜ごめん赤也〜〜」



ふにゃという顔をして、優姫が顔の前で手を合わせる。



かわいいなちくしょう


と切原は頭を押さえた。



「つまり、俺のこと嫌いじゃないってことだし、わかんないだけで可能性はあるってこと?」

「う、うん、うん」

「なら」



切原が真剣な眼差しになる。
そして、彼は優姫の両手を自分の両手てがしりと掴んだ。



「そ、の、俺と!デートしませんか!合宿終わったら!」

「えええっ!?」



切原からのデートのお誘いに優姫がばっと赤くなった。
切原も負けじと赤くなって、若干顔をそらしている。



「いや、その、いや意識しなくていいからさ、その、出かけないかって意味で」

「う、うん?うん、そう、そうだね!?うん」



二人して真っ赤になりながらあたふたしている様子はなんとも微笑ましい限りである。


そして、そんな初々しい二人の様子を陰から覗く者が複数人…



「わ〜春だね〜」

「微笑ましいですねー」

「幸村に柳生なにをして、むぐっ!?」

「真田うるさいよ!シッ!」



何も気づかずやってきた真田を幸村が無理やり黙らせる。
立海勢はわが子を見る親のような眼差しだ。


そしてそのまた別の陰では



「侑士〜負けるぞこのままだと〜」

「岳人、お前人の心配してる場合なのか?」

「うるっせぇよ!友達の心配したっていいだろ!」



向日と宍戸がどこかハラハラした様子で野次馬をしていた。
正確に言うとハラハラしてるのは向日だけだが。



「恋愛は理屈じゃないからな、確率計算は難しい」

「どっから出てきたんだ乾…」



野次馬根性丸出しでヌッと現れた乾に宍戸が若干引いた様子で身を引く。


切原と優姫はそんな野次馬たちに気づくことなく、はっと我に返ると少しよそよそしい感じになりながらコートへと戻っていったのだった。



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