アンリーズナブル

□取っ掛かり
1ページ/4ページ


翌日
優姫は午前中から出勤した


公安局刑事課一係の居室にたどり着くと、そこには切原・樺地だけがいて
切原にいたってはイヤホンをして携帯型ゲーム機に夢中だった


「おはようございまーす」


入っていったものの、切原は優姫に気づかず
樺地はこちらをむいてぺこりと頭をさげただけ


少しのきまり悪さを抱えつつ、昨日教えてもらった自分の席について、とりあえず諸々一式を起動

まず最初にやることは、昨日の事件の報告書作成だ

昨日は細かい操作方法まで教えてもらえなかったので不安だが、まあ何かあったら聞けば…

と室内をみたが


切原はゲーム
樺地は無口


不安だ

先輩の跡部さんはいないし、教えてくれそうな双烹さんもいないし

とそこで、一係の居室のドアが開いて誰かが入ってきた


「プリッ」


よりによって一番話せなさそうな人がきたー!と優姫は頭を抱えた

案の定、仁王はチラと優姫を見ただけですぐに自席に座ってしまう


ええいもう自力でなんとかしてやると優姫はやや投げやりな気持ちで仕事をすることにした

跡部によって既に送られていた書類フォーマットを開いて、昨日の情報を記入していく


昨日は、優姫は実質何もしていなかった
双烹と仁王のあとをついて
犯人を見つけて
仁王が執行するのを見届けて…


全然うまく立ち回れなかったな…と少し気持ちが落ち込む
続けて思い出したのは昨日の跡部との会話だった


……



執行官たちが乗った護送車とは別に
優姫は跡部と共に小型車にのって移動していた


「樺地は指示通りに動くやつだ。双烹も、あいつは判断力もある。切原はちょっとばかし阿呆だが瞬発力はあるやつだ」


で、仁王だが、と跡部が一拍置く


「執行官歴は一番長くて実戦力もダントツだが、あいつは好き勝手動くタイプだ。まともに言うことを聞いたことがねえ」

「えっ」


そうだったのか
それなら、自分の言うことなんか聞かないわけだ

なんて納得しかけて
というかそんな人を新米にぶつけるのはどうなのだ?
いや、いっぱしの監視官扱いしてくれたということでいいのか?
むしろ初回の実力だめしか?と疑念が広がったところで再び跡部の声


「ただ唯一、割かしだが聞く相手がいる」

「えっ、そうなんですか?」

「あぁ。それが双烹だ」


なるほど
そういうことだったのか

先ほどまでの出来事を振り返りつつ、優姫は今度こそ納得する

とそこから少し遅れて沸いた新たな疑問


「何で双烹さんの言うことだけ…?」

「いろいろあってな」


まー調べたきゃ、執行官の経歴は閲覧可能だから監視官権限で覗きな、と跡部は言ったが
優姫はあまり乗り気になれなかったので、どうしても必要に迫られたときにしようと思った


……



チラと仁王の方を見てみれば、彼は画面と向き合いながらカメレオンさながらに吹き戻しをピロピロしていた


謎すぎる…


すぐに打ち解けるのは無理そうだからゆっくり親交を深めていこう、と気を取り直して正面を向いて
そのまま作業にもどり、ぴっぴっぴっと順調に記入を進めていた優姫であったが


「…あれ?」


急にEnterキーが効かなくなった
何度か押してみても反応がない

致命的だ
仕事ができない


改めて室内を見回しても、やはりいるのは樺地、切原、仁王の三人

なんでよりにもよって今ー!?と悲しくなりつつ
メソメソしていてもしかたがないので、優姫は勇気を振り絞り、立ち上がって三人のいる中間くらいまでいって声をかけてみた


「あのー…替えのタブレットってあったりしますか?」


シーン…
返ってきたのは虚しい静寂

仁王は画面の方を向いたままピロピロ
樺地はこちらを向いたが何も喋らず
切原は…


「あっれ?優姫ちゃんおはよ。いつ来たの?」

「…おはようございます」


今気づいて呑気に挨拶してくる始末
もうどうしよ〜と絶望しかけたところで、樺地が自分のデスクの引き出しをガサガサと漁りはじめた

何だ何だ、と覗いていれば、出てきたのは新品のタブレット
彼は丁寧に両手で、それを優姫に差し出してくれた


「これ…よければ…どうぞ」


喋った!!
優姫に色々な感動が押し寄せた


「ありがとうございます!えっと、樺地さん?」

「はい。樺地崇弘です…よろしくお願いします」

「よろしくおねがいします!」


礼儀正しい人だ!
話しかければ話してくれるんだ!とさらに嬉しくなる

優姫は彼からありがたくタブレットを受け取って
引き続き書類作成にあたることにした



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ