アンリーズナブル
□顕れた不穏因子
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日付を越えた頃
切原赤也の自室にて
「聞いてくださいよー!来週優姫ちゃんと出かけるんす!」
だらしなく、ニヘニヘとした笑みを浮かべた切原がバーカウンターに上半身を伏せる
その向かいで、ウイスキーのグラスを片手に、仁王がほう?と言って眉を上げた
「どこに行くんじゃ」
「ゲーセンっす!あとラーメン食べるっす!」
「……それおまんだけが行きたいところじゃろ」
「そんなことないっす!」
切原がむっと膨れて
しかし直ぐにニヘッという笑みに変わる
部屋にテーブルとソファーはあるが、いま二人はバーカウンターを机がわりに向かい合わせで飲んでいた
優姫がいたときとはうってかわって
ハイペースで酒を飲んでいるせいで、切原は酔いが回りに回っている
「わざわざ非番の日に誘ってくれて、そんで今日は俺の部屋にまできてくれるとか、俺だいぶ心許されてるっすよね〜!?」
「そうかもしれんの」
「俺に気があんのかなー?なーんて」
切原のその言葉に、ふっ、と仁王が笑う
「儚い夢じゃな」
「ちょっとお!いいじゃないすか夢くらい見たって!」
あまりにバッサリと切り捨てられたからか、切原がだん!とカウンターを叩いて抗議の姿勢をとった
が、しかしすぐにしゅん、となる
「まーたしかに、全然男として見られてる感じがしなかったっていうか……うわぁああん」
「泣くのはやめんしゃい、めんどくさい」
「めんどくさいは余計でしょ!!」
まただぁん!とカウンターを叩いた切原に
情緒不安定なやつじゃの、と仁王が声をもらす
仁王ははなから面白半分に聞いているだけなので、切原をおだてる気も慰める気もないのである
切原はやけになったように、自分のグラスに入っていたジンハイボールをぐいっと飲み干した
「そういう仁王さんはどうなんすか?長い執行官生活の中で、一人や二人」
その質問に、仁王はいつもの表情のままだ
「さてのう」
「えー教えてくださいよーこういうときくらい」
「ダーツで勝ったら教えてやってもいいぜよ」
「それ絶対無理なやつじゃん!」
切原が早々に諦めたのは、仁王が非常にダーツが得意なことを知っているからである
もういいっす…と不貞腐れたような表情になった切原は、しばらくしてはたと顔を上げた
「てか、監視官が執行官連れ出すとか前例あるんすか?」
「…プリッ」
「仁王さんも連れてってもらったことあります?」
切原のその質問に、仁王は
…
「なあ、明後日非番なのか?」
「……だったらなんじゃ」
「昨日通りかかったモデルガンショップ、いきたくないかなーと」
「私も明後日非番なんだ」
…
「──さーて、あったかもしれんし、なかったかもしれんのう」
「んもー!ほんとになんも教えてくれないんすから!」
甦った記憶に蓋をして
目の前でふくれっ面をする切原を、仁王が喉を鳴らして笑った