短編

□風鈴の音とともに
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風が吹いて、ぶら下がった小片がガラス玉に当たって音が鳴る


「綺麗な音」

「そうだね。それに、いい風だ」

「うん」


今日は二人で神社に来ている
せっかくなので、二人して浴衣で


小暑を迎えたこの時期は、日増しに強くなる日差しのせいで首に汗が滲むほどであったが
涼やかな風鈴の音で、その暑さも吹き飛びそうだった


「入ろうか」

「うん」


人が少なくなったタイミングで、私と周助は風鈴回廊の中に足を踏み入れた



耳を澄ましてみれば、風鈴の一つ一つが違う音色を出していた

カラカラとなるのもあれば、シャラシャラ、チリンチリンなどと
それらが全て重なってキラキラという音になって
まるで星が瞬いているようで、とても耳心地がいい


「ねえ」

「ん?」


振り返った瞬間

こちらにカメラが向けられていて
あ、という間もなくシャッターがきられた

カメラを構えた手が降りていって、満足そうな周助の顔が覗く


「ふふ。ありがとう、いいのが撮れたよ」

「…もう、すぐ撮るんだから」


不意打ちなんて絶対に不細工に写ってるにちがいないのに

じとっとした目を向けてやれば、ごめんね、という言葉は返ってくるものの、顔の方は反省の色なし
まあいつもの流れだ

私は諦めて、また鳴り響く風鈴たちに目をやった


視線を真上にやれば、揺れる幾重もの小片が波のよう

綺麗だな、と思いながら、そのまま視線を横にずらし、ゆっくり下へと落としたところで

初めて気がついた
小片に直筆の文字が書いてある

誤ってちぎってしまわぬよう、私はそれをそっと手に取った



"ずっと一緒にいれますように"



「これ、書いて飾れるんだね」


振り返ってそう言えば、またこちらにカメラを向けかけていた周助が、それをおろして私の隣までやってきた

(また不意打ちで撮るつもりだったな、という小言はしまっておく)


「本当だ」


願いを書けるなんて、なんだか短冊みたいだね、とこぼした彼に
そうだね、と相づちをうつ


私たちも、書いてみたい


そう思った私は
少し間をあけてから、チラと周助のことを見上げた


「私たちも何か…書く?」

「うん、やろうか」


すぐに賛成してくれたことに、嬉しくなって、少しほっとする


おそらくどこかに、これを書いて飾る用の風鈴売り場があるはずだ

あとで探しにいこう、と約束をして
顔をひそかに綻ばせながら、私は小片から手を離した



そうして
また二人で風鈴回廊を進んでいき、回廊の出口が近づいた頃に


「ねえ紺」


彼から声をかけられて
少し構えながら振り向けば、今度はカメラを向けられておらず、直接目が合った


「なに?」

「夜も来ない?ライトアップされて綺麗なんだって」


そういえば、ホームページにのっていたかもしれない

是非見たい

そしてなにより、彼が夜もまた来たいと、夜まで私と一緒にいたいと思ってくれたことが嬉しかった


思わず破顔して、うん、と頷けば
彼もまた、ふふ、と笑う


「また綺麗な君を撮るのが楽しみだな」


悪戯っぽく緩められたその瞳に、私の顔に熱がいった






風鈴の音とともに



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