短編

□特等席にご招待
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日が傾いた時間の、並盛中学の屋上にて


「はやく上ってきなよ」

「上ってるの〜!」


なにか綺麗な景色がみたい
ぼそっとそんなことを呟いたら、じゃあ見せてあげるよと言われて連れてこられた屋上

今はその、屋上にあるタンクの上にのぼろうとしている
3ステップくらいで軽やかに上って行った彼とは真逆に、私はそこに繋がる梯子にしがみつくのすら精一杯だった


現に、手がプルプル震えている


「どんくさいね」

「私は上るのはじめてだもん!」

「僕は最初からすぐ上れたよ」

「どうせ身体能力よくないですよー!」


ない腕力と脚力を振りしぼって、うんしょうんしょと梯子をのぼる
やっと梯子の先まで手が辿り着けば、呆れと小馬鹿さの入り混じった表情で見下ろしてきていた恭弥が、こちらに手を差し出してくれていて

素直にそちらに手を伸ばせば、私の体は彼の手によって力強く引っ張り上げられた



ようやくたどり着いたタンクの上
恭弥が指し示した方向を見れば、大きな夕陽と、黄金色の日差しが煌々と輝いていた


「わぁ…!」


綺麗だ、とても


タンクの上に二人して座って、改めて夕陽と、夕焼け空を見る
黄金から、橙色へ、それからさらに茜色へと染まっていく空と並盛町
この場所から、こんなに綺麗な景色が見れるなんて知らなかった


「恭弥はこれを見てたんだね、いつも」


恭弥はよくここにいた

そんなところに座っていて楽しいのだろうか
ただ単に高いところが好きなのだろうか、とか思っていたことを反省する

もう少しはやく、こうして一緒に見てみればよかったと思った


「…なに」


気持ち、少し体を彼の方に寄せれば
彼がすぐに察してこちらを向く


「少しよっかかってもいい?」

「…別にいちいち許可取らなくていいよ」

「やった」


甘えるように、頭を彼の肩に置いて、そのまままた夕陽を見る


日差しの暖かさと、頬に感じる温もりが心地いい
調子に乗って、ぎゅっと腕に抱きついてみれば、彼は振り払わずにそれも許してくれた


「もしかして、他にも並盛の絶景スポット知ってたりする?」

「当然でしょ」


僕を誰だと思ってるの?と続いた言葉に、ぷっと吹き出す
聞くまでもなかった
彼は、この町を誰よりも並盛を愛してやまない人物なのだ


「じゃあ連れてってくれる?」


追加でそう尋ねてみれば、恭弥が顔をこちらに向ける気配がする
肩から顔をあげれば、その優しい眼差しと目があった


「いいよ。君が行きたいならね」


ああ、幸せだ


私は緩む表情を隠そうともせず、再びぎゅっと恭弥の腕に抱きつき、その肩に頬を寄せた


「恭弥好き」

「知ってる」



二人はそのまま、日が沈みきるまで、夕陽観賞を楽しんだ





特等席にご招待






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