短編

□落下にご注意下さい
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初めて一緒に来たディズニーランド
骸さんはディズニーに来ること自体が初めてで、なので当然、このスプラッシュマウンテンにのるのも初めてだった


乗る前の、詳しい説明は特にせず
割と"ゆったり"過ごせるアトラクションです、とだけ言ってトロッコにのせる
乗車位置は二列目


出発して、パーク内の景色を眺めながら水に揺られ
軽快な音楽とともに、渓谷を模したアトラクション内を進んでいく


「この擬似川下りがずっと続くのですか?」


彼の言葉のチョイスに、私は吹き出してしまった

そんなこと考えたこともなかった
が、たしかに川下りだ


「そうですね」

「ほう…スリルはありませんが、ゆったり過ごせるようでいいですね」


ふふっと含み笑いをしそうになるのを必死に耐える

だめだ、顔にだしたらだめだ
骸さんは鋭いから気づいてしまう

私はそうですねーと相づちだけうって、またのんびりと、前を向いて過ごすことにした



しばらく進めば
前方から、キャーという悲鳴が聞こえてきた

景色を見ていた骸さんが、訝しげに前方を見て、それから私を見る


「…なぜ悲鳴が?」

「この先暗いからだと思います」

「それだけで?…随分とまあ…ただ川下りをしているだけ──」


落ちた


着地の振動が来て、パシャンと水しぶきが手にはねる
隣を見れば、骸さんが完全に虚をつかれた顔になっていた


「なんですか今のは」


私は耐えきれずに笑ってしまった

クスクスと笑っていれば、骸さんの視線をめちゃくちゃ感じる


「紺」

「滝です。滝」

「落ちるなんて聞いていませんよ」

「言ってませんもん」

「まったく…」


呆れ顔になった彼に、落ちてびっくりしました?と尋ねてみる
答えはいいえだった


森の動物たちの大合唱を聞きながら
キツネとクマ、そしてウサギの追いかけっこ劇を眺めてまた進む


アトラクション内の景色を眺めると同時に、私は骸さんのことも眺めていた
この薄暗い中でさえも彼はかっこよくて、一緒にいる嬉しさに頬が緩む


しばらく進んで
急にやってきた静けさと暗闇に、骸さんが何かを察知したような顔になる…や否や、また落ちた


「………」


物言いたげな視線にまたクスクス笑いが止まらなくなる
このアトラクションは割と急に落ちるのである


またしばらく、蜂や森の動物たちの合唱を聴きながらアトラクション内を進んで

終盤になってくれば
ストーリーが不穏なものになり、曲もダークなものへと変化していった

ガタン、という音とともに、トロッコが急斜面を上り始めれば、骸さんがまたこちらをみる


「なにやら上っていますがまた落ちるんですか」

「ふふ、どうでしょうね」

「落ちるんですね」


三回目ともあればさすがに察するのも早い骸さん
最終は明らかに落ちるために上る雰囲気があるので、わかるだろう

私も最後に来る大きなスリルにワクワクと構えた


トロッコがどんどん上っていけば、外の光が差し込みはじめ、視界が開けてとうとう頂上へと到達

すれば


「きゃーっ」


満を辞して、トロッコが急落下をした


お尻がふわっと浮いて、風に煽られ髪がはためいて
ミストを潜り抜ければ、着地と同時に勢いよく水しぶきが上がる

そして時間差で
舞い上がっていた水しぶきが、パラパラと服や顔にかかった


ああ楽しかった!

晴れやかな気持ちで乱れた髪をなおしがてら隣を見れば


「……」


尋常じゃないくらいにずぶ濡れになった骸さんがいた


「え!?すごい水かかってる!そんなに!?」


前の人が伏せたりしていたのだろうか
私は少ししかかかってないのになあ、と私が目を丸くしながら自分と彼を見比べていれば、骸さんが静かにこちらに顔を向ける


かっこいい
色気がすごい
文字通りの、水も滴るいい男だ


髪からぽたぽたと水を滴らせる彼に思わず見とれていれば、彼がはぁとため息をついた


「僕を騙しましたね紺」


その恨めしげな視線と台詞に、思わず笑ってしまった私だった






落下にご注意下さい






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