短編

□いっぱい食べる君がすき
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「うまい!」


一つのテーブルに、隙間なく敷き詰められたお皿たち
そのどれにも、料理がこんもりと盛られていて、せっかくお皿の中に仕切りがあるのにまるで無視


そんな見ているだけでえげつない量を、目の前にいる人物は大変美味しそうに頬張っていた


「バジル…さすがにとってきすぎじゃ…」

「なんのこれしき!ここにあるのでやっと腹三分目くらいでござる!」

「ええ…」


末恐ろしい程の大食感
この量を食してなぜ太らないんだと少し恨めしい

これもうまい、これもうまい!ととても幸せそうに食べている彼は、どう見ても小柄だし細身だし……とても幸せそうだなぁ本当に


どの料理も美味しそうにもぐもぐと頬張っていくバジルは、見ていて微笑ましい気持ちになると言うか、ほら、たんとお食べ、みたいな気持ちになる


自然に頬を緩ませ、彼のことを見つめていれば
肉じゃがを飲み込んだところで、バジルがふとこちらを見た


「紺ももっと食べるべきです。そんなに細身では」

「私はこのくらいしか食べれないから」

「少なすぎませんか?」

「貴方が多すぎるのよバジル…」


自分の基準が普通ではないと気づいて欲しい
彼の一食の量は、私が朝昼晩かけたとしても無理だ

私がそういえば、バジルはそうかなあ?と言いたげに首を傾げて
それを元に戻すついで、私のお皿の中を覗き込んできた


「それはそうとして…偏っていますね」

「う」


痛いところを突かれた

言われた通り、私のとってきた料理は全体的に見てバランスがよくない
なぜなら、好きなものばかり取ってきているからである


でもいいじゃないか!
私は彼から追加で何か言われる前に主張した


「いいじゃない、バイキングは好きなものを取ってきて食べるものだし!」

「うーん、たしかにそうですね!」


そんなあっさり納得するんかーい、とツッコミたくなるぐらい、バジルは私の意見にあっさり同意した

そして再び箸を進め、もぐもぐと料理を頬張り始める

そしてふと、彼の手が味噌汁のお椀を手に取ったとき、私はその中にあるものに目を見張った


「えっ、それって…?」

「はい!オクラと納豆のトロロそばです!」


満面の笑みを向けられて、変な愛想笑いが出る


なぜそんなえげつないネバネバ料理が好きなのか
彼はイタリア人ではないのか

外国人って、ネバネバ嫌いじゃなかった…?特に納豆は


しかし驚くべきことに、彼の好物はなんとその納豆なのである


「ん〜〜そば最高でござる」


美味しそうにネバネバそばを啜るバジルを、私は感心の眼差しで見つめていた





いっぱい食べる君がすき





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