短編

□兄ポジション争奪戦
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並盛中の応接室に人が3人
ディーノとロマーリオ、そして紺

外出中の雲雀を待つ間、話の合間に紺がこんなことを言った


「ディーノさん、お兄ちゃんみたいですよね」

「ん?そうか?」


コクリと頷いてから、紺がまた言葉を続ける


「面倒見もいいですし、優しいですし。私、ディーノさんみたいなお兄ちゃん欲しかったです」


雲雀に雑に扱われていた頃は率先して庇ってくれたり
彼とくっついてからも色々と相談にのってくれたり


“仕事”として雲雀の家庭教師を務めている彼にとったら、自分は完全なる業務対象外であり
あくまでオマケであるのにもかかわらず、ディーノは茅のことをいつも可愛がってくれた


「呼んでもいいんだぜ?」

「えっ」


ディーノが茶目っ気たっぷりにウインクをすれば、その様はまるでハリウッド映画に出ている俳優のよう


紺はしばらく躊躇するように視線を泳がせていたが、やがて、もじもじしながらその単語を言った


「お兄、ちゃん…?」


ディーノが固まった
そして数秒すると、紺の横まですっ飛んできて、紺の頭をすごい勢いで撫で始めた


「わ、わ!?」

「あ〜〜俺、妹欲しかったの思い出した〜〜〜」


わしゃわしゃと髪を掻き回されて、いつにないくらい勢いのよい撫でっぷりに紺は大いに戸惑ってしまう


「あの、ディーノさん」

「違うだろ紺」

「あ…」


訂正を要求されて、紺は一旦目を伏せてからはにかんだ


「お兄ちゃん」

「っ…!」


ディーノが、がばっと紺を自分の腕の中に閉じ込めた
うわー!?と驚きの声をあげる紺をしばらくホールドしてから、彼がまた紺の頭を撫でる


「可愛いなー紺、いっぱい甘やかしてやりてぇ」


優しい眼差しでそんなことを言われれば、ドキドキしてしまう


「そんな…いっぱい甘やかしてもらってます」

「まだまだだな、マフィアのボスの本気甘やかしを舐めるなよー?」

「きゃー!」


ひょいっと腰を持ち上げられて、そのまま立ち上がったディーノにくるくると回される
最初こそ驚いた声を上げたものの、紺も嬉しそうな顔でディーノの首に掴まっていた



「………ボス、ほどほどにしねぇと恭弥にぶっ殺されるぜ」


はしゃぐディーノに、ロマーリオが呆れたように言葉をかける
雲雀の嫉妬深さを知らないわけでもなかろうに、と彼が自らのボスに向けて、もの言いたげな視線を向けた時

ガチャリと応接室のドアが開く音がした


ちょっと、何してるの


雲雀恭弥お出まし
怒りのボルテージ最高潮に近い顔をして、雲雀がディーノを睨みつけている

言わんこっちゃない、みたいな顔をするロマーリオをよそに、ディーノは特に取り繕う様子もなく

雲雀は未だ紺を抱き上げたままのディーノのもとへ、つかつかと進んでいった


「僕の紺に触らないで」


雲雀が紺のほうへと手を伸ばす
しかしディーノは紺の体をひょいっと反対側に持っていって、自分の背側に下ろした


「別にとるつもりはねーよ。妹と遊んでる感じだ」

「は?頭沸いたの?」


遠慮のない罵倒をぶつけてくる雲雀に対し、ディーノは涼しい顔だ


「紺も兄ちゃんがほしいっていったし、俺も妹が欲しかったからな、winwinだ」


貴方の上司どうなってるの?みたいな顔で雲雀がロマーリオのほうを見る
ロマーリオが両方の手のひらを上に向けて、肩を竦めた


「し、師匠、あの」


紺がディーノの背からおずおずといった具合に顔を出してくる
雲雀はすぐさま彼女のことを見た


「紺、僕がいるでしょ。はやくそいつから離れて」

「おーおー、そいつ呼ばわりとは言ってくれるな」


兄ちゃんって呼ばれるのも悪くないんだぜ?とかなんとか言いながら、ディーノが上体を屈めて、何かを紺に耳打ちする

紺がええっ、と声をあげて視線を泳がせた


この期に及んでまだ接近するか、と雲雀がディーノたちのほうへ今一歩踏み出そうとした時
紺が何やら緊張した面持ちで雲雀の方を見た


「恭弥お兄、ちゃん…?」

「ん"ッ」


雲雀がくぐもった声を上げて、一時的に動作を止めた
その様子を見てディーノはカラカラと笑ったが、すぐに紺のほうに顔を向けた

俺は?とディーノが自分のことを指差すのに、紺は素直にそれに応える


「ディーノお兄ちゃん」

「なんだー?可愛い妹よー!」

「きゃー!」


ディーノがまた紺を抱き上げて、自分を中心にくるくると回す
そして彼女を床に下ろした瞬間、復活した雲雀が彼女の体をかっさらった


「いい加減にして。僕のだよ」


凄みを効かせて睨みつける雲雀に、ディーノは悪びれる様子がない


「だからとるつもりねぇって。兄ちゃんでいたいだけだ」


なー紺ー?と言いながらディーノが紺の体をまた引き寄せる
たちまち雲雀がムッとして、紺の体を引き寄せ返した


「離して」

「お前は師匠であり彼氏なんだからいいだろ。兄は俺だ」

「いやだ。僕が師匠で彼氏で兄だよ」

「お前欲張りすぎだぞ!?」

「うるさいね。紺は全部僕のなんだよ」


正面にディーノ、背面に雲雀
腹側に回る雲雀の腕と、背側に回るディーノの腕が、交互に紺を自分の方に引き寄せようとして、紺の体は行ったり来たり


「離せ恭弥。紺は俺の妹だ」

「いやだね。僕のだよ」

「俺のだ」

「僕のだってば」


ぐいぐいぐいぐい
取り合いはまだ終わらない

頭上で激しい睨み合いがなされる中、途中までオロオロしていた紺は、そこでクスクスと笑い出してしまった

ディーノと雲雀の二人ともがキョトンとした顔になって、紺のことを見下ろしてくる


「なに笑ってるの」

「どうした、紺」


一通りクスクスと笑ってから
紺は二人を交互に見て、それから嬉しそうに破顔した


「こんな風に取り合いしてもらえて、お兄ちゃんが二人もいて。私幸せです」


満面の笑みでそう言った彼女に、ディーノと雲雀の二人がくぐもった声をだして
数秒もしないうちに、また紺争奪戦が勃発する


「…止めねぇでおくか」


間に挟まったまま嬉しそうにしている紺をみて、ロマーリオが温かい眼差しのまま微笑んだ







兄ポジション争奪戦



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